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レジー『ファスト教養』(集英社新書)

 ビジネスにすぐ役立つ教養としての「ファスト教養」が流行している。その現象を分析し、その背後に何があるか探っている本。中田敦彦の「YouTube大学」に代表されるように、最近は即効性のある知識を提供するコンテンツが増えている。それは一応は「教養」を謳っているが、内容は浅薄で粗く雑である。だがビジネスパーソンはそういうものを身につけることで競争社会を生き残ろうとする。ファスト教養とは、旧来の教養のように人生を豊かにするものではなく、お金儲けのためのものである。ファスト教養の流行の背後には、自己責任論がある。自分の責任で成り上がろう、成り上がれなかったのは弱者だ、そういう精神性が背後にある。

 確かに世の中のビジネスパーソンは多忙であり、コスパの良い情報を得たいという気持ちはわかる。だが、そのようなコスパやタイパの良い情報の得方ではそもそも情報が正しく深く得られないのと私は思っている。ネット記事で得た情報というものは本当に断片的で浅薄で、ちょっとしたライフハックくらいにしか使えない。そうではなくて、自分が生きていくうえで真に役立つ情報というのはやはりスローなきょうようでしか得られないのではないだろうか。