社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

橋本努『ロスト近代』(弘文堂)

 ポスト近代の後にくるロスト近代における現状と打開策を論じている本。ポスト近代においては、近代の超克が企図され、父権としての超越的規範が批判され規範そのものが失われていった。その過程で、抑圧されていた欲望が噴出し、人々は果てしなき消費に駆動された。だが、その欲望消費はロスト近代において減退しつつあり、権威の過小抑圧のもと欲望も減退しつつある。そのようなロスト近代においては、人々の潜在能力を引き出す「多産性の原理」に期待が寄せられる。多産性の原理は、自然の超越的価値を模倣しながら新たな創造を生み出す。

 様々な学説を引用しながら、重厚かつ緻密に展開されていく議論はまさに圧巻である。現代においてロスト近代が到来しているというのはまさに私も実感しているところであり、そこで多産性の原理が重要であることも本質を言い当てていると思う。知らなかったこともいろいろと勉強になり、とにかく現代について考える際に非常に参考になる本である。おすすめです。