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奥村隆『他者といる技法』(ちくま学芸文庫)

 論文集。人間はただのリラックスした家庭生活を送るときでさえ、表情を整えたり相手に反応したり、一定の他者とともに居る技法を用いている。他者といる技法についていくつかの論点から迫っていくが、その際に、著者のスタンスは被害者のそれではない。社会から被害を受けたものとして、社会の外側から問題を告発していくのではなく、社会のすばらしさも不適当さもともに味わっているごく普通の社会の中の人間として社会を論じていくということ。そのようなスタンスでこの論文集は書かれている。

 適度な複雑さで進行していく議論は心地よく、他者とあることの面白さについて楽しみながら読めていく本である。こういう本が読む者の教養を深めるのだろう。論文集は即効性のある知識はあまり提示せず、むしろ専門的な論点を扱っているが、こういうものを読むことで鍛えられる思考力は読者の教養を深める。とても良い本だった。