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浜屋・中原『育児は仕事の役に立つ』(光文社新書)

 

  タイトル通り、育児は仕事の役に立つということを実証的に示す本。旧来、仕事と家庭は対立するものと考えられてきた(ワークライフ・コンフリクト)。だが、近年ではむしろ仕事と家庭が互いに良い方向に影響し合う研究が増えている(ワークライフ・エンリッチメント)。本書で示される研究もまたワークライフ・エンリッチメントの研究であり、旧来対立的に考えられてきた仕事と育児の正の相乗効果を示すものである。

 本書は、「協働の計画と実践」、つまり配偶者と役割分担を取り決めたり、事情が変わったときにすり合わせたりすることや、「家庭外との連携」、つまり保育園との関係づくりやトラブルシューティング、保育園関係のイベントや他の保護者との関係づくりなどを積極的にこなして行くことで、保護者のリーダーシップが高まることを統計的に示している。リーダーシップとは課題管理や人間関係、変革に関わるものである。

 マタハラやパタハラが問題視されるようになって久しい。だが、本書はそもそもマタハラやパタハラにはきちんとした根拠がなかったどころか、逆に前提を誤っていたことを示す本だといえる。それらのハラスメントは育児が仕事の役に立たないことを前提としているが、ここでは逆に育児が仕事の役に立つことが科学的に示されている。マタハラやパタハラがいかに不毛で有害であるかがよくわかる。