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ワーク・ライフの相関性

 近年の若者はワーク・ライフバランス重視である。仕事も大事だがそれ以上にプライベートの時間を大事にする。また、仕事をしていても、よく「オン・オフの切り替え」とか「仕事は仕事、家庭は家庭」といったことを言われたりする。これらの考え方はすべて仕事と生活が別個のものとして分離されているという前提に基づく。だが実際はどうだろうか。仕事と生活はむしろ相互に連関しているのではないだろうか。

 例えば私は事務職を生業としているが、生活していくうえで各種書類の作成が必要となることがある。役所に何かを申請したり、賃貸アパートの契約をしたり。そういった生活における書類作成に際して、生業の事務のお仕事はとても役に立つのである。仕事で常々書類の作成をしているから生活において書類を作成するのも何ら苦でもないのである。

 また、例えば私は今育児をしているが、育児をするときに必要な情報収集、育児に関する知識の習得、育児を行うに際しての段取り・スケジューリングなど、育児を遂行する上で必要なスキルは仕事を行う上で必要なスキルととても良く似ている。

 組織で働くということは、その組織の目的に沿ってその組織が実現すべき目標を達成することに貢献するということだ。そこには当然組織独自のルールが存在する。上下関係や決裁システム、論理的コミュニケーションなど、組織には組織独自の論理が存在する。確かに生活においてはその組織の規律からは解放されるかもしれない。

 だが、家庭においては今度は家庭のルールが場を支配する。話し合いで方針を決めたり共感的コミュニケーションをとったり、それぞれの悩みや愚痴を聞いたり、家庭には家庭のルールがある。家庭における家事・育児に関しては、妻が夫に優位するため、妻を夫の上司になぞらえて説明する論者も存在するくらいだ。

 組織と家庭では場のルールが多少異なるが、組織において必要なスキルと家庭において必要なスキルにそんなに違いはない。他者の尊重、事務処理能力、情報収集能力、段取りを取る能力など、組織においても家庭においても重要なファクターは多数存在する。

 そういう意味で、ワークとライフは相関関係にある。仕事で得たスキルが家庭で生きることもあれば、家庭で得たスキルが仕事で生きる場合もある。だから、仕事において優秀な人は家庭においても優秀であるし、そうあらなければならない。同時に、家庭において優秀な人は仕事においても優秀である。ワークとライフは違った場を提供するが、そこで生きていくにあたり必要なスキルは根底的に共通しているのである。