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ジュリエット・B.ショア『浪費するアメリカ人』(岩波現代文庫)

 

  所得の高い仕事に就くとたいてい激務であり、私生活の余裕があまりとれない。だが、私生活の余裕を取ろうとすると所得の低い仕事に就かざるを得ない。我々の人生において時間を取るかお金を取るかという問題は重要であり、低い所得でやりくりしながらも家庭生活や趣味を満喫するか、それとも遮二無二働きそのお金でブランド品を買ったりいい車に乗ったりするか、それはその人の生きざまを反映しているといえよう。

 ジュリエット・B.ショア『浪費するアメリカ人』によると、90年代のアメリカにおいては、人々は「ワークアンドスペンドサイクル」、すなわち浪費するために長時間労働するサイクルに巻き込まれていた。人々はステイタスを求めて消費し、良い家や良い車、ブランド品を買うためにハードな仕事をこなさなければならなかった。だが一方で、その頃でもプライベートな時間を大事にする「ダウンシフター」が生まれつつあり、低所得でも家計をやりくりし、余裕のある生活を送っていた。

 自らの職業を選択する際に、所得を重視するかそれとも低ストレスや私生活を重視するかは大きな分岐点となる。現代日本においては低所得かつ激務というブラック企業も現れているが、それは論外として、自らの人生の価値をどこに見出すかは選択を大きく左右する。少なくともこれからは昔のように見栄を張る必要はないと思う。高級車を乗り回して高級ブランドに身を包みということに魅力を感じる若者はだいぶ減ってきている。現代の若者の価値観としては、それよりも親密なパートナーや仲間といかに良い思い出をつくれるかの方が重要なのだ。そうするとおのずと職業の選択も、激務ではなくほどほどの量の仕事で、高所得ではなくほどほどの所得で満足するようになってきているのではないか。