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林望『習近平の中国』(岩波新書)

 

 習近平を中心として展開される中国現代史。習の前の胡錦濤国家主席の代では、先代の江沢民院政を敷くことで中国共産党内部の軋轢を生み出していたため、胡錦濤は習に代を譲るときに完全に引退した。習に権力が集中する構図が出来上がった。習近平は「二つの百年」という国家目標を持っている。中国共産党成立100周年である2021年までに、庶民がまずまず余裕のある暮らしを送れる「小康社会」を実現するという目標。そして、中華人民共和国成立100周年である2049年までに、中国がさらなる高みに立ち、「中華民族の偉大な復興」を完成させるという目標である。とはいっても、中国はもはや経済成長が鈍化するフェーズに入っており、民主化を求める市民の声も多い。そんな中どこまで中国の人々の暮らしを向上させるかは簡単な課題ではない。

 本書は中国現代史の本であり、最近の中国をめぐる動向を知るうえで簡易に読める入門書の一つだ。あっという間に国際社会の中で存在感を増した中国に関しては、これからもよく動向を観察していかなければならないだろう。中国は人権問題や領土問題などを抱えている困難の多い国でもある。そんな中での習近平の動向は注目される。中国社会はとても一枚岩などではなく、民主化を求める市民の層は結構厚いのではないかと思われる。中国政府は民主主義などの正統性を持たない国家であり、そのあたりの脆弱性をどう克服するかも気になる。いずれにせよ、読んでよかったといえる本だ。