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大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに』(星海社新書)

 

  ルーマニアペシミストであるシオランを紹介した本である。シオランは怠惰を奨励した。なぜなら怠惰であれば行為も存在も拒否するため悪事を働かないからである。またシオランは自殺を肯定的にとらえる。自殺は追い詰められた時の逃げ場であり、いつでも自殺できると考えることで人間は自由になれる。そしてシオランは憎しみについても肯定的にとらえる。憎しみは人を生き生きとさせ、対立や競争へと人を導く。次にシオランの文明観について。生き生きした民族は野蛮で自らの価値観を他に押し付け繁栄する。それに対して衰弱した民族は自由で寛容である。またシオランは、人生を苦悩と挫折と失敗に満ちたむなしいものだと考えている。

 シオランは人生の一つの側面を切り取ってくる。なるほど彼の言うことは一面的には真実だ。だがそれだけではなく人生には別の面もある。すぐさまそのような反論が可能だ。また、シオランは怠惰を奨励する一方で生き生きとした憎しみも奨励し、見えやすい矛盾がある。だが、平凡に日常生活を送っているとなかなか思いつかない視点を持っているため、彼の言葉に気づかされることは多い。面白い思想家である。