精神医学の現場で起こる「診断」することについての哲学的考察である。本書では「分かる」ことを説明と了解に分けている。説明するというのは、特定の物理的特性から科学的に説明することや、対象についての経験の束や他者と共通する名指しによって経験的に説明することを含む。それに対して了解というのは、対象との終わりのない対話によって単なる説明以上に相手を分かることを指す。精神医学の診断にあたっては了解の方が望ましいが、ときには了解が不可能な場合もある。そもそも健常人からは了解不能なような症状などについては、科学的な説明による診断を行わざるを得ない。
確かに精神医学の現場は難しい現場である。他人の心を扱うというのに、それを風邪薬を処方するような仕方で機械的に扱われたのでは患者には不満が残る。患者としては、簡単には名指されない自分の症状というものを、名指されないまま、その都度その都度の差異を受け入れてもらって了解してもらいたい。医師はそこに寄り添うようにしないと正しい診断はできないのだろう。なかなか面白い読書だった。