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中村佑子『マザリング』(集英社)

 

 母であることの現象学。子を産むときの圧倒的な体験はあまり言語化されてこなかった。本書は、母であることについて多角的に言語化することを試みている。子を産んだ時、自分と子どもは未分化な状態になる。それは自分たちが周縁的な存在になることでもある。妊娠期、女性は自分の身体に大きな秘密があり、それが匿名的な「生命」そのものの大きな広がりへと接続していくのを感じる。その他、女性であることで性的な視線にさらされることや、フェミニズムの動き、養子関係、男性から見たマザリングなどについて、自らの経験だけでなく他者へのインタビューを通じて掘り下げていく。

 本書は女性の視点から描かれているが、子を持つ男性としても大変興味深く読んだ。子を持つということをこのように微細に記述されると、新しい発見がいろいろとあり、「言語化する」ということの力を感じた。母となることは確かに基本的に言語化を拒むものではあるが、そこをあえて言語化していくことで可視化されること、あるいは不可視であることが再確認されること、そういうものの輪郭が見えてきた。子を持つ者皆におすすめしたい本である。