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ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)

 

 本書は、著者がYahooなどの各媒体に発表した短い時評を年代別に編んだものである。扱っているのは主にイギリスの社会問題や政治事情である。普段日本で暮らしていると、問題をたくさん抱えているのは日本ばかりのように思えてくるが、本書を読むと、イギリスはもしかすると日本以上に問題を抱えているのではないかと思えてくる。また、日本とイギリスに共通する問題も見えてくる。

 要は、新自由主義経済に基づく経済格差により弱者が困窮していることを政治の失敗として著者は様々な事例を通して訴えたいのだ。緊縮財政が敷かれているイギリスでは福祉に対する財政措置が十分でなく、弱者が貧困などで困窮している。だが、それは同じく新自由主義的経済をとるわが国でも問題になっていることである。新自由主義、小さな政府の弊害はアメリカを例にみるとよくわかるが、日本でもいずれはイギリスほど事態は悪化するかもしれない。そのような警鐘を鳴らす本でもあると思った。