社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)

 

 ノンフィクション・エンターテインメント。昆虫学で博士号を取った著者が、自らの研究生命を保つためにアフリカへ旅立ち現地で奮闘する物語。一見するとアフリカの冒険譚のようにも思える。だが、これは第一次的には現代日本社会の冒険譚なのだと思う。特にポスドクが日本社会を生き抜いていく冒険譚。日本では高学歴ワーキングプアがたくさん存在し、博士号をとっても食っていけない人間は多数いる。そんな中で地図も道もない荒野を、情報収集能力とチャレンジ精神で切り抜けていくのが本書のストーリーである。具体的には、研究費をもらえるポストを得るために限られた期間で成果を出していくという冒険譚である。アフリカ行はこのポスドク冒険譚の一部に過ぎない。

 本書はかなり分野横断的であり、昆虫学の知見が出てくると思えばアフリカ滞在記とも読める。また日本におけるポスドクの苦境を訴える書物ともなっているし、そんな状況の中で果敢に生き残った著者の成功の物語でもある。多様な読みができる上、ユーモアに富んでいてぐいぐい読ませる優れた書物だ。新書大賞、うなずける。