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武井彩佳『歴史修正主義』(中公新書)

 

 主にホロコーストに関する歴史修正主義について入門的に書いた本。歴史修正主義には、政治体制の正当化や不都合な事実の隠蔽という政治的な意図が存在し、単なる歴史解釈を超えるものである。歴史修正主義は現在における歴史の効用を政治的に利用しようとする未来志向のものである。このような歴史修正主義ホロコーストやジェノサイドを否定したりするが、それは人種偏見を増長し憎悪を扇動し社会のアイデンティティを破壊するという社会一般に対する不利益をもたらす。だから現在ヨーロッパではホロコースト否定などには刑罰が科されている。

 本書は、おもにヨーロッパの歴史修正主義について、歴史修正主義の歴史を書いている。歴史修正主義については歴史哲学的なアプローチもとれるとは思うが、本書は歴史学的なアプローチをとっている。だから、歴史とは何か、という哲学的な問題についてのアプローチについては弱いし、またホロコースト否定罪についての法的アプローチについても弱い。歴史修正主義については哲学的・歴史学的・法的にアプローチできるが、本書は主に歴史学的にアプローチしている。そこに本書の特色がある。