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大沢真理『企業中心社会を超えて』(岩波現代文庫)

 

  「会社主義」というと、過剰な競争、異端的社員の排除、非正規社員への差別、長時間労働視野狭窄といったことが言われてきた。だが本書は、「会社主義」とは雇用労働と家事労働を貫く性別分業が基盤であることを主張している。

 というのも、女性が社会進出しているといってもしょせんパートタイマーの割合が多く、雇用の調整弁として使われており、日本の社会保障制度を考えても、男性稼ぎ手モデル、女性こそが家庭内でのケアを担うという役割分担がなされているからである。つまり、雇用労働において女性はそれほど中心的な労働力とみなされていないし、家事労働は女性に押し付けられて男性は企業内での労働に専念しているからだ。

 本書は、豊富なデータに裏付けられた会社主義分析の本であり、会社主義という概念にジェンダーからの視野を導入したことが画期的だった。少し古い本ではあるが、今なお男性中心の会社主義は根強く残っている。2021年現在、日本は少しずつ変わりつつあるが、それにしても変化が遅すぎると言わざるを得ない。