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原田泰『ベーシック・インカム』(中公新書)

 

  新しい社会保障制度としてのベーシックインカム。本書はその導入の必要性や可能性、理論的背景などについて論じている。

 従来、日本の労働者は会社によって守られてきた。だが正規雇用の減少と非正規雇用の増大によりワーキングプアの問題が発生している現状では、会社による生活保障は期待できなくなった。また、従来からある生活保護制度などは適切に機能しておらず、貧困者を救う機能を果たせていない。

 ベーシック・インカムは、誰にでも等しく同額を給付する社会保障制度である。これは功利主義リベラリズム社会主義などによって支持される一方、リバタリアニズムなどには支持されない。

 これらの点について議論したのち、本書は月額7万円のベーシック・インカム給付が実現可能だとしている。実際、国際的にみればオランダではすでにベーシック・インカムを導入しているし、検討中の国や地域はあったはずである。貧困の問題の解決をベーシック・インカムに一元化し、それ以外の問題に福祉官僚が専念するという未来像は確かに望ましいかもしれない。いずれにせよ、これは実際に制度を導入してみないと、その功罪ははっきりと見えてこないのではないか。その意味で、先立って導入した他国の現状を注視する必要がある。