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メンタルヘルスとハラスメント

 企業は生産性を上げるため、経営学的観点から業務の効率を上げようとする。その観点から職員の心の健康をケアするメンタルヘルスや職員の業務効率を下げるハラスメントの防止を語ることもできる。だが、メンタルヘルスとハラスメントの思想の根底には、個人の尊厳や個人の生活の質の問題も含まれていると思われる。だから、メンタルヘルスとハラスメントの思想は経営学的思想であるだけでなく、法的思想でもあり、衛生学的思想でもあるわけだ。
 職場の不要なストレスをなくし、職員の心の健康に配慮すること、一方で職員の側でも自らのストレスなどをうまくコントロールし、心の失調に至らないよう配慮すること。組織と職員の両側面からメンタルヘルスは配慮される。そのことによって、職場の生産性を保ち、休職や退職のコストを減らし、労働災害を防ぐ。メンタルヘルス経営学的思想からこのように説明される。それに加えて、憲法では個人に健康な生活を保障しているため、心的な面で健康である権利を守るという意味でメンタルヘルスは配慮される。また、ストレスの少ない生活は個人の生活の質を上げる。そのような配慮もある。
 ハラスメントは加害者と被害者がいる厄介な事例である。被害者へのケアを怠るとマスコミへのリークや訴訟などによる危機管理上の問題が生じるし、ハラスメント加害者というレッテルを貼られた加害者へのケアも必要である。組織としてハラスメントを防止するのは当然として、ハラスメントの定義やその害悪を職員に理解してもらい、ハラスメント加害者を作り出さない体制づくりが必要である。それと同時に、ハラスメント被害者を作り出さない工夫も必要である。職場で誰かを孤立させない、新人や仕事に不慣れな人、優しい人を保護する、部下であっても上司を適度にけん制するよう心がけさせる、など様々な工夫が必要である。
 ハラスメントは個人の人権を蹂躙する明白に違法な行為であり、もうとっくに法治国家である日本において許容できる事態ではないということが大前提である。法的観点からは、ハラスメントは違法であり、訴訟に至ってもおかしくない。また、ハラスメントは業務の効率を明確に下げ、経営学的観点からも望ましくない。なにより、ハラスメントが起きたときの対応に終始することで本来の業務ができなくなってしまう。また、職場の人間関係を破壊し、職場の居心地が悪くなる。
 このように、メンタルヘルスとハラスメントの思想が近年広がりを見せていることには理由があり、それは今まで放置されていた非効率や人権侵害を防ぐために必須であるからである。これからの日本は効率性重視、職員のWLB重視の方向に動いている。労働人口が少なくなり、労働者一人一人を大事に育てていかなければ国が立ち行かなくなってきている。昔は労働者というものは「替えがいくらいでもいる存在」だったかもしれないが、いまや労働者は「かけがえのない存在」に変わってきている。メンタルヘルスとハラスメントの思想をどんどん推進していかなければならない。