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大和田敢太『職場のハラスメント』(中公新書)

 

  職場のハラスメントについて、その実態を踏まえたうえで問題の本質に迫る。

 ハラスメントとは、広く労働に関連し、労働者の人格や尊厳を侵す行為、権利を侵す行為、労働条件を悪化させる行為である。ハラスメントには多様なものがあるが、それらはいずれも個人間の問題ではなく経営上の問題であり、社会的規制が必要な問題であり、構造的問題である。

 ハラスメントは諸外国において法的に規制されている。例えばベルギーでは事前規制がなされ、フランスでは事後規制がなされている。ベルギーはハラスメントの防止を重視し、使用者の義務を明確化し、専門スタッフの役割を強化している。フランスではハラスメントについて刑事罰が科されている。

 日本においても、ハラスメントに対する被害者救済制度・権利保障が求められている。使用者はハラスメント防止に努める必要があるし、労働者はハラスメント防止施策に積極的に参加する責務があり、外部機関の設置も必要である。

 本書は現代日本で深刻化するハラスメントについて包括的で網羅的な記述を行っている。日本でも最近ようやくハラスメント防止の法制化が始まったが、国際的に見て非常に遅れていると言わざるを得ない。労働者の人権がそれほど重視されていなかったのだと思われる。いまや日本も人権意識が高揚し、人権思想が根付き始めている。ハラスメントとはまさに人権の問題であり、社会の問題であるのだ。とてもためになった。