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中真生『生殖する人間の哲学』(勁草書房)

 

 本書はレヴィナスに依拠しながら、人間は根底的に誰でも親になりうることを論述している。一般的には、生むことがそのまま親であることにつながると考えられがちである。基本的に母親が第一の親であり、父親や里親はその次の位置、と考えられがちである。だが、シングルファーザーや特別養子縁組の例を見ると、もはや親としてふるまう第一の人間は父親や里親だったりする。実際には「親」というものは固定しておらず流動していて、「親」は様々な人により多様なグラデーションで構成され、その濃淡は子の発達の段階で流動している。そして、「親」であることは、保護者の側からだけでなく、子がだれを「親」として指定しているかという視点からも考えなければならない。

 本書の基本的な主張はそれほど難しくないが、それを精緻かつ丁寧に論述している点に好感が持てる。また、自らが親として経験して得た知見がふんだんに盛り込まれ、著者の独自の思考が十分に見える著作である。単なるレヴィナスの引用ではなく、むしろそれは最小限にとどめられ、あくまで著者固有の哲学を築こうとしている。この哲学に向かう姿勢は非常に好ましい。