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長谷川宏『幸福とは何か』(中公新書)

 

  長谷川は本書で幸福を、「穏やかで静かで身近なしあわせ」ととらえたうえで、様々な哲学者の幸福論を自らの幸福観と照らし合わせている。もちろん哲学者たちの幸福論は長谷川の幸福論とはそれほど一致しない。特に高みを目指して精進する系の幸福論とは長谷川は一線を画する。長谷川にとって幸福とはとりわけ努力して得るものではなく、ごく普通の庶民がごく平凡な日常生活を送ることから生じてくるのである。

 本書は、様々な哲学者の幸福論を、著者自身の幸福論との対比で読み解くことができてなかなか面白い。幸福論に正解があるとは思えないし、そもそも正解のある種類の問題ではないと思うのだが、それにしても多様な幸福論が展開されているのが面白い。だが、私も割と長谷川の立場には共感するところがある。ごく普通の日常がごく普通に続いていくこと、生活が通常に回っていくこと以上の幸せはなかなかないのではないだろうか。