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小田久郎『戦後詩壇私史』(新潮社)

 戦後間もないころの詩人と詩の出版社の状況を活写する活気に満ちた本。詩というとマーケットが狭く、それほど広く人口に膾炙していないのが実態である。そうでありながら、様々な詩人が様々な媒体で活躍している状況を描いている。戦後間もないころの書肆ユリイカの話や自ら立ち上げた思潮社の話。そこで活躍する谷川俊太郎鮎川信夫吉本隆明大岡信の話など。エピソードをいろいろと交えながら、自らの批評意識も反映させる。一種のエッセイである。

 このように、マイナーなカルチャーの状況をきちんと記録していくということはとても貴重である。マイナーであってもたくさんの人が活躍して、たくさんの記録が残っている。それについてたくさん言説を残すことで、そのマイナーなカルチャーを活性化するということ。その地道な積み重ねが、マイナーなカルチャーを少しでもメジャーな方面へと押し上げていく原動力になるのではないだろうか。現代詩は苦境を強いられている。その苦境を克服すべく悪戦苦闘する人々の話であり、それは今日も続いている。