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川端康雄『ジョージ・オーウェル』(岩波新書)

 

  『動物農場』や『一九八四年』で、個人の自由の制限や監視社会化に警鐘を鳴らすようなディストピア小説を書いたジョージ・オーウェルの生涯と作品について書かれている。初めは自らの従軍体験などを書いていたオーウェルだが、BBC勤務時代にマスメディアの影響力の強さを実感し、また検閲を受けることで表現の自由をめぐる考察に導かれた。『動物農場』は明確なソヴィエト批判であり、金持ちがプロレタリアートを搾取する状況を動物でたとえている。ソヴィエト神話の真相の暴露を意図している。『一九八四年』もまたスターリニズム下での自由の制限や監視について書いている。

 情報技術の進歩により、例えばビッグデータなどにより我々の行動の監視は容易になってきている。また、ポスト真実の時代で報道の在り方が問い直されている。このような時代でオーウェルが再び注目を浴びるのは必然的なことだと思う。現代社会はもはやディストピア化が進行してしまっているのかもしれない。そんなことを思わせる評伝だった。