社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

宇佐見英治『明るさの神秘』(みすず書房)

 主に宮沢賢治について書かれた批評的エッセイ集。宮沢賢治のいう心象スケッチは、時間の中で書かれたものではなく、時間そのものの相貌であり、この呼吸を言い表すために四次元世界・四次元芸術という言葉を使った。彼の詩は詩的ではあるが詩ではなく、通例の意味を超えた本質への志向を持っている。彼の詩は、どこで始まったかもわからずどこで終わったかもわからない、時間の中に浸り時間を創造する、真の意味での音楽であった。

 宇佐美英治の感性と知性の総合がよく見える本である。宮沢賢治についての批評的洞察は、極めて明晰であると同時に極めて深い。そのほか、ヘルマン・ヘッセとのやり取りや彼に対する批評なども出てくるが、基本的に宮沢賢治に対する批評が素晴らしい出来栄えである。この作品が宮沢賢治賞を受賞したのもうなずける。宇佐見英治の批評はもっと読んでみたい。もう亡くなってしまったが、それだけ注目すべき批評家だったと思う。