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郡司ペギオ幸夫『創造性はどこからやってくるか』(ちくま新書)

 独特な芸術創作論。一人一人が状況の中にあえて二項対立的なものを見出し、肯定的・否定的矛盾の共立を構想するとき、そこには外部が召喚され、全き外部と接触することで創造性が発揮される。著者はこれを「天然表現」と呼ぶ。ものの価値は量的なものではなく、質的な創造のポテンシャルとなる。そしてこれは自然科学のひらめきや社会改革の原動力となりうる。作品は「完全な不完全体」であるので、作家は作品が不完全な穴にやってくると感じ、「できた」と思う。鑑賞者は不完全さを示す穴に吸い寄せられ、その穴に何かが召喚されて「わかった」と思う。

 確かに、何かを創造するとき、そこには常に全き外部が介入すると思う。それを見事に理論化したのが本書であり、また本書はその創作理論に基づきみずから創作を実践した記録も載せている。これはあらゆる芸術ジャンルだけでなく、芸術を超えて科学や社会運動にまで射程を広げている大きな理論である。大変刺激的だった。