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畑中章宏『宮本常一』(講談社現代新書)

 特異な歴史学の境位を開いた宮本常一についての紹介。宮本は時代的にも早いうちからフィールドワークの重要性に気付いていた。民俗学の系譜にありながら、独自の展開を示し、村に入り民家の人と話すことにより、知らない世界が無限に開かれてくることを知っていた。歴史を作ってきた主体は庶民であり、大きな歴史は庶民の小さな歴史の積み重ねで出来上がっている。民族誌ではなく、生活意識・生活文化に根付いた生活誌・生活史を重視した。

 宮本常一は今でいうところの質的社会学を先取りしていたように思う。自らは思想を持っていないと言っているが、その実践こそ思想であり、その実践に思想が宿っている。歴史学からも注目されていた思想家であり、『忘れられた日本人』の解説は網野義彦が書いている。現在隆盛している生活史であるが、もっと早い時代に宮本により先取りされていたのである。