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桑瀬章二郎『ジャン=ジャック・ルソー』(講談社現代新書)

 常識を問い直す人としてのルソーの紹介。ルソーの思想は複数の知の領域にまたがっており、「政治」「自由」「学問」「教育」「子ども」「私」「自我」「欲望」などについて、常識を改めて問い直すような思考を行った。出世作『学問芸術論』においては、啓蒙の世紀に生きながら、「学問」「芸術」「ぜいたくな暮らし」を批判する論考を示し、大きな反響を呼んだ。様々な議論を誘発し、それにこたえることでルソーもまた考えを深めていった。常識に対して常に批判的な視座を持ち続けること。ルソーはそういう思考に長けていた。

 ジャン=ジャック・ルソーについて、読みやすくコンパクトにまとまった良き入門書である。これをもとに、ルソーの原典に当たっていくと入り込みやすいだろう。古い常識が有効でなくなっている現代において、常識の更新は喫緊の課題である。そこにおいて、議論をいとわずルソーのように批判を投げかけていく勇気が必要なのではないだろうか。それが社会のより良き前進に資することだと思われる。