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斎藤美奈子『出世と恋愛』(講談社現代新書)

 近代文学を類型化して読み解く試み。近代日本の青春小説は、三つの要素からなっている。①主人公は地方から上京してきた青年である。②彼は都会的な女性に魅了される。③しかし彼は何もできず結局ふられる。「告白できない男たち」の物語である。一方、近代日本の恋愛小説も、三つの要素からなっている。①主人公には相思相愛の人がいる。②しかし二人の仲は何らかの理由で崩れる。③そして彼女は若くして死ぬ。「死に急ぐ女たち」の物語である。このように、近代文学において男女のコミュニケーションがうまくいかないのは、文学者たちがホモソーシャルな空間で成長してきたことと関連する。

 日本の近代文学を分かりやすい図式で説明し、一つ一つの作品を丁寧に読み解いていく読んでいて楽しい評論である。もちろんそれぞれの作品はこの図式以上の内容をはらんでいるわけであるが、同じような構造を備えていることには社会文化的な背景があるのである。思い込みの強い男性たちと打算的な女性たち。悪く言えばそんなところだが、「恋愛はカネとカオとの交換」もまた現実的なところだろう。