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傷害に関する罪?

 刑法は256条で盗品等に関する罪を処罰しているが、同じように「傷害に関する罪」は処罰できないだろうか。本犯の既遂までに関与すれば傷害の共犯または共同正犯だが、本犯の既遂後に傷害罪に関与して何らかの法益侵害を惹起できないだろうか。

 例えば、本犯が被害者をナイフで刺した後、近くにいた人が、被害者の携帯電話を取り上げて救急車を呼べなくした場合。あるいは、被害者が病院へ行こうとするのを邪魔した場合。

 盗品等に関する罪の罪質については、(1)追求権説、(2)新しい違法状態維持説、(3)物的庇護罪説がある。追求権説は、盗品等に関する罪が被害者の財物を取り戻す権利を害しているとするが、同じように、傷害罪を事後的に助ける行為は、被害者の身体の完全性に対する人格的利益を害している。新しい違法状態維持説は、盗品等に関する罪が財産犯によって生じた違法状態を維持することに可罰性を見出すが、同じように、傷害罪を事後的に助ける行為は、傷害罪によって生じた違法状態を維持している。物的庇護罪説は、本犯者への協力によって刑法規範の実効性が害されると考えるが、傷害罪を事後的に助ける行為を処罰しないことも、傷害行為を抑止している刑法の実効性を害しているといえないこともない。

 このように、理屈の上では「傷害に関する罪」みたいなものも考えることは可能だが、傷害行為を事後的に助ける行為というものは、犯罪学上おそらくめったに起きないものであり、それを処罰する必要性はないのだろう。