社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

今野晴貴『ブラックバイト』(岩波新書)

 

ブラックバイト――学生が危ない (岩波新書)

ブラックバイト――学生が危ない (岩波新書)

 

  若者に過重な労働を強いるブラックバイトを告発した本。

 ブラックバイトはワンオペの過重労働や長時間労働を学生に強い、学生の学業や進路に悪影響を及ぼす。ブラックバイトの過重な要求のせいで心を病んだり単位を落としたり進路を断念したりするケースが後を絶たない。

 学生は無知で社会的な位置も低いため、安くて従順な労働力として戦力化されやすい。一度ブラックバイトを始めると責任感や脅迫などによって辞めるに辞められないことが多い。コンビニや居酒屋などフランチャイズ化されたサービス業で、バイトは基幹的な戦力となっているからだ。

 ブラックバイトは学生の責任感ややりがいに付け込む悪質なものである。契約違反や不払い残業代、労働法違反について、行政や労基、NPOなどに相談し、労働法に基づいてきちんと戦う必要がある。

 『ブラック企業』に続く『ブラックバイト』。若者を使いつぶし社会的なコストを発生させるこのような人権侵害に対しては、国を挙げて早急に対処しなければならない。必要なのは正しい法的知識であり、正常な権利感覚である。若者にそのような教育を施すのも一つの手ではないだろうか。

堤直規『公務員の「異動」の教科書』(学陽書房)

 

公務員の「異動」の教科書

公務員の「異動」の教科書

 

 公務員は定期的に異動があるので、ほかの業種よりも異動対策が必要なのかもしれない。本書は異動に際しての心構えを書いたもの。だが、中身については一般的によく言われていることばかりで、最近の経営学的知見が生かされているわけでもなければ、特に真新しいアイディアが書かれているわけでもない。

 ただ一点心に残ったのは、「鳥の視点」「虫の視点」「魚の視点」の教え。俯瞰的に仕事を眺めることも大事だし、細かく担当業務を極めることも大事だし、時代の流れを察するのも大事である。この教えはとてもいいと思った。全般的に新入職員向けで、いまさら言われるほどのこともないことが多い。 

宮本・山口『日本の政治を変える』(岩波現代全書)

 

徹底討論 日本の政治を変える――これまでとこれから (岩波現代全書)

徹底討論 日本の政治を変える――これまでとこれから (岩波現代全書)

 

  「曲がり角を適切に曲がれなかった」日本政治を省みている本。戦後日本の政治経済は冷戦の終焉、バブルの崩壊をきっかけに、1990年代以降急速に時代遅れになった。しかし、制度改革はむしろ人々の政治参加の意欲を減退させ、政権交代自民党以外の政治勢力への不信だけ残し、変化・改革を模索しながら答えを見いだせないでいる。

 日本政治が曲がり角をうまく曲がれなかったのは、曲がり角自体がどんなものかを誰も理解していなかったことによる。本当の課題は日本社会を支えてきた雇用レジームの崩壊に際して新たなレジームを構築することだった。90年代から00年代にかけて日本政治は惰性に従って変革を遂げることができなかった。「成長」神話からの脱却が著しく遅れた。

 本書は対談形式で戦後日本政治を振り返っている本であり、予備知識がないとなかなか理解は困難だろうとは思った。いわゆる「政談」というものであり、それでありながら十分理論的である。この手の具体的な政治の流れを論評するものを私はあまり読んでこなかったので大変勉強になった。

私の図書館利用法

 私は読書が趣味で、日々教養を深めるため読書をしているわけだが、そこで欠かせないのが図書館の存在である。私は読んでいる本の半分くらいを図書館から借りている。図書館は無償で本を借りることができ、娯楽代の節約に資する存在である。
 私は学術系の本は鉛筆で傍線を引きながら読むため買うことにしている。それに対して小説やエッセイについては傍線を引かないため極力図書館から借りることにしている。学術系と文学系がだいたい半々なので、半分くらいの本を図書館から借りているというわけだ。
 図書館で本を借りるときもいろいろなパターンがある。まず、初めからこの本を借りると決めていくパターン。ウェブ上で蔵書は検索できるため、あらかじめ図書館に所蔵されていて貸し出し可能であることを確かめたうえで狙い撃ちするパターンである。だがそれだけではない。図書館に行ってみると、新刊のコーナーがあるし、テーマ別のコーナーや特集などもある。そういうところを眺めてめぼしい本を借りることもある。また、だいたい著作者の目星をつけて、その著作者の本でまだ読んでいないものを借りるというパターンもある。それに、純粋に「ジャケ借り」もある。書架をうろうろさまよっていて、何となく手に取ってみた本がとてもよさそうだったから借りるということもままある。
 図書館で本を借りるにあたっても、日ごろからいろいろと情報収集している。わかりやすい例でいうと文学賞芥川賞ノーベル賞の受賞作家の本は必ず読むことにしているし、その他話題になっている本で面白そうなものは読むことにしている。SNSなどでの情報収集は図書館で本を借りる際に非常に役に立つ。
 図書館はそのほかにも新聞や雑誌が置いてあり、またたいへん静かであるためくつろげる空間である。図書館は本を借りる場所であると同時にリラックスの空間でもある。

野矢茂樹『そっとページをめくる』(岩波書店)

 

そっとページをめくる――読むことと考えること

そっとページをめくる――読むことと考えること

 

  本書において野矢はまことに簡潔明瞭な書評をしている。書評にはその人の文体が如実に表れるものであるが、論理的で要を得てわかりやすく、という野矢の文体は書評においても健在である。この本はこういうことを言っている、どうだ読みたいだろう、と読者をいざなうのが本書のスタイルだ。そして、書評の神髄とはまさに書評の対象を読者に読みたいと思わせることにあるはずである。

 本書が取り扱っている本の範囲は一般的な教養書であり、学術書ほど難しすぎずかといってライトすぎず、一般的な大人の教養人が教養を深めるのにちょうどいいタイプの本ばかりである。ちょうど私が普段読んでいるようなレベルの本が多くて、選書の際にとてもためになるものであった。

 自分の本を書評するというお茶目な側面もあり、全般的にユーモアに満ちていた。ぜひとも多くの人にお薦めしたい。