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責任について

 責任は、「損害を与えないこともできたにもかかわらず、損害を与えた」ことから生じると考えられる。つまり他行為可能性が根拠になっている。「損害を与えないことができなかった」場合に責任を追及しても、それ以降行為者が損害を回避しようとする動機を与えることはできない。「損害を与えないこともできた」ときに責任を追及すれば、それ以降行為者は損害を回避しようと努力するだろう。

 責任については、過失責任、危険責任、報償責任などが論じられる。過失責任は、まさに「注意義務を尽くせば損害を与えないことができたにもかかわらず、損害を与えた」ような事例で生じる。だが、危険責任、報償責任はどうか。

 危険責任について、717条1項は、危険物の所有者には無過失責任を負わせているようである。つまり、所有者の管理が行き届いていて損害を避けることができなかった場合でも責任を負う。これは、「損害を与えないことができなかった」場合に責任を負わせていて、責任制度の原理に反しないか。だが、危険物の所有者は、危険物を所有しないということもできたにもかかわらず、危険物を所有しているのである。損害を与えないことができたか、という段階ではなく、そのひとつ前の段階、すなわち損害の原因となった危険物を所有しないことができたか、という段階で他行為可能性がある。「危険物を所有しないこともできたにもかかわらず(他行為可能性)、危険物を所有し、それによって損害を与えた」ことが危険責任の根拠ではないか。これは責任制度の原理に反しない。

 同様のことが、報償責任についてもいえる。報償責任を徹底させると、使用者に選任・監督の過失がなくとも、使用者が被用者によって利益を上げていれば、被用者による損害の責任は使用者に帰属することになる。一見すると、使用者は過失がなかったのだから損害を避けることができなかったにもかかわらず責任を負って不合理なようにも思える。だが、使用者はそもそも被用者を使用しないこともできたのである。「被用者を使用しないこともできたにもかかわらず(他行為可能性)、被用者を使用し、それによって損害を与えた」ことが報償責任の根拠の一つではないか。これも責任制度の原理に反しない。