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権利自白

 原告が物権的請求権を訴訟上行使するための請求原因として、原告が当該不動産について所有権を有していることがあげられたりする。だが所有権を有するということは事実ではなく法的評価なので、請求原因としては本来ふさわしくないが、被告が原告の所有権を認めることにより、権利自白が成立し、原告は所有権を基礎付ける事実を主張立証しなくてよくなり、裁判所は原告が当該不動産について所有権を有することに拘束される。

 これは、不動産の所有権を基礎付ける要件事実を挙げるとなると、その不動産の一番初めの所有者がその不動産を原始取得などで最初に取得した事実に始まり、それが長い時間の経過の中で様々な人に譲渡されたという事実を逐一挙げなければならなくなり、事実上原告は当該不動産を所有していることを立証することが著しく困難になるからである。

 だが、以上の権利自白を認める趣旨にかんがみれば、次のことが言えないだろうか。

(1)まず、債権譲渡の事例であっても、債権の発生から何十人という人の間でその債権が転々と譲渡され、めぐりめぐって原告がその債権を取得したような場合、立証の困難を救済する趣旨から、原告にその債権が帰属することについて被告が認めるという形で権利自白を成立させてもよいのではないか。

(2)次に、所有権の事例でも、不動産の前主がその不動産を時効取得したような場合は、時効取得の要件事実と、原告がその不動産を前主から譲り受けた要件事実を摘示すればよいのであって、原告の所有権について権利自白を認める必要はないのではないか。