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理事の代表権の制限

一般法人法77条
4項 代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する。
5項 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

 通常の代理の場合は、取引の相手方はその者が本当に代理権を有するか調査する必要性は高い。だが、代表理事は法人を包括的に代表するため、相手方は代表理事が取引の権限を有すると信じるのももっともであり、いちいち代表権に制限があるかどうか調査する義務はない。外観を正当に信頼した者を保護し取引の安全を図る規定として、77条5項がある。

 一方で、取引の相手方が理事の代表権への制限を知っていた場合、相手方を特に保護しなくても取引の安全は害されない。相手方は、理事の制限された権限内で取引すればよいのであり、そのことが相手方に不測の損害を与えることはない。

 だが、理事の代表権への制限について悪意の者が、理事の権限外の行為の有効性を主張できないのは、他にも理由があるような気がする。悪意者は、当該取引が理事の権限外で、法人にとって不利益になりうることを知りつつ、あえて取引に及んだのである。悪意者は、法人にとって不利益になりうることを認識しつつ、それを避けなければならないという規範障害に直面しながら、それを乗り越えて取引に及んでいる。だから、悪意者には刑法における故意責任と類似した責任を問いうる。よって、悪意者は取引の無効という制裁を甘受しなければならないのである。