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義務の不履行

 義務の不履行という意味では、公法上の義務の不履行も債務不履行も同じである。公法上の義務の不履行に対して、政府は自力執行(過料、代執行など)できる。それに対して、債務不履行の場合は、私人に自力救済が認められていないため、私人は裁判所へ出訴しなければいけない。国家は暴力を独占し、私人から暴力を剥奪している。原始社会では私人にも自力救済が認められていたかもしれないが、社会契約による合理的制度設定により、私人は自力救済ができなくなった。そのかわり私人には訴権が与えられている。国家が自力執行できないとすると、他に暴力を振るう主体がいなくなり、紛争を終局的に解決できない。暴力の行使は社会秩序を乱しかねない危険なものなので、国民はそれを一定の公正な機関に委ね、自らの意思に基づく法律により規制することにしたのである。