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竹内信夫『空海入門』(ちくま新書)

 

  空海がどういう人だったかということについて書いた入門書。

 空海は高野に愛着を持っていて、そこを修業の場として選んだ。官僧として業績を上げていく一方で、本人は自由な修行僧として求道することを望んでいた。それでありながら、空海は詩人や芸術家など幅広い人たちと交流する開けた人物だった。

 何よりも、空海長安への留学の成果として、全く新しい密教を持ち帰ったその進取の気性において秀でていた。新しさを好み実際に新しさに誇りを抱いていた空海モダニストの名に値する。

 本書においては空海の人物像しか見えてこない。引用される文献も彼の思想の内容自体は伝えてこず、空海の思想を知るためには同著者による『空海の思想』を読むのが良いと思われる。いずれにせよ、空海は古いようでいて全く新しい人であり、その生の脈動が伝わってくるような生き生きとした筆遣いだった。