社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

高橋・河合・永田・渡部『不機嫌な職場』(講談社現代新書)

 

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)

 

  人間関係の悪化している職場が増えているという現状認識のもと、それがなぜ生じていてそれを改善するためにはどうしたらいいかについて書いた本。

 現在、個人成果達成のプレッシャー、閉じた働き方、つながりの希薄化などにより、労働者は自分の仕事に閉じこもり、互いに協力し合えなくなり、防御的反応や攻撃的反応、相互信頼の低下などによって、労働者間の関係の悪化、壊れる人材、業績の低迷などが生じている。

 これに対し、様々な経営努力がなされている。お互いがタコツボに入らず、お互いをよく知り、感謝や認知を与え合うことでやりがいを生み出す。そのような協力的な職場を作り出すことが大事である。そうすれば人材が壊れることもなく、組織の業績は上がっていく。

 現代の職場事情についての鋭い分析だと思う。実際、私なども会社で働いていると、職場の環境を悪化させていく職員に出くわすことがある。そういう人間は基本的に他人に対する敬意を欠いており、他人を軽視し仮想的な優越感に浸ろうとしている。そうではなく、お互いに感謝しあい認め合うという社会人としての一番基本を見直すということ、それだけで職場の雰囲気は良くなっていく。大変参考になる本だった。

轡田竜蔵『地方暮らしの幸福と若者』(勁草書房)

 

地方暮らしの幸福と若者

地方暮らしの幸福と若者

 

  地方で暮らす若者たちの幸福感の実態に迫った社会学的研究。

 ①働き方の問題が核心

 大都市を回避し地方都市や田舎の暮らしをポジティブに受け入れている若者が多く全体的に「幸福」であるが、働き方によって幸福度は様々である。地方安定就職が縮小する中で、多くの人たちは社会経済的な上昇の展望を持つことを難しいと考え高望みしていない。だが、現状維持だけで精いっぱいの人が少なくない。そんな中NPO就職や起業を志す者もいるが、経済的に不安定である。若者たちのライフキャリアの選択肢を増やし、精神的余裕を持って働ける環境づくりが大切である。

 ②地方中枢拠点都市圏と条件不利地域圏の関係

 三大都市圏と地方圏の間の違いより、地方の中枢と田舎との対比が重要である。地方中枢と田舎の間では地域評価の差が大きい。だが、幸福感についてはそれほど差がない。田舎における幸福は十分可能であり、地域外に社会関係が広がっているモビリティが重要である。

 ③社会と関わるモチベーション

 若者たちが社会に開かれていくにあたって、地元愛や地域貢献志向に過剰な意味は持たせられない。個人の幸福と社会の幸福とのジレンマがあるからである。個々人の生活や人生の選択肢を広げるためには、地元・地域を超えた多様な他者との豊かな関係性に開かれることが大事である。

 本書はアンケート調査やデプス・インタビューによって、現代の地方暮らしの若者の幸福度について社会学的に研究した優れた本である。地方創成などが叫ばれている昨今、では実際の地方暮らし、しかもその中枢を担う若者たちはどのような実態のもとにおかれているか、そういうことを丁寧に研究している。実際に地方に住む若者として大変参考になった。

仕事が好きな人と嫌いな人の違い

 なぜ世の中には仕事が好きな人と嫌いな人がいるのでしょうか。仕事が好きな人の労働は喜びに満ちています。それに対して仕事が嫌いな人は労働についてネガティブな感情を抱いています。仕事が嫌いな人は他人に厳しく、残業しない人やあまり仕事ができない人に変に厳しいです。それに対して仕事が好きな人は多様な人材を認めます。だから、これからの会社の在り方としては仕事が好きな人が多くいた方が望ましいです。その方が従業員間の肯定的な協力関係が期待できるからです。仕事が嫌いな人はむしろ職場の軋轢を生み出す源となります。
 仕事が好きかどうかは、学びを楽しめるかどうか、達成を楽しめるかどうかの二点に関わってくると思います。言い換えれば、過程を楽しめるかどうか、結果を楽しめるかどうか。
 仕事を遂行するにあたって、ルーチンワークでもない限りは常に新しく学んでいく必要があります。新しい知識や技術を身につけることで新しい仕事をこなしていくのです。そこには必ず学習が伴います。その学習を楽しめる人は仕事を楽しめます。
 また、仕事には必ず成果がついてきます。それはすぐに出る成果ではないかもしれないけれど、例えば自分の発案について決裁が下りる。契約の締結までこぎつける。様々な達成が仕事には存在します。その成果・達成を喜ぶという前向きの気持ちを持てる人は仕事を楽しめます。
 もちろんこれは仕事だけに限ったことではありません。人生の様々なイベントにおいて、様々な過程や結果が存在します。それぞれをポジティブに楽しんでいける人が同じように仕事においても過程と結果を楽しめるのです。
 仕事を楽しくやっていると自然と周りの従業員からも評判が良くなります。いつもにこやかで愛想のよい人は人から好かれますし、職場の空気を良くします。そういう人材が多ければ多いほど、会社の業績は上がっていくでしょう。人生を楽しむという基本的なところに仕事を楽しむ根拠はあるのではないでしょうか。

岡本正『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)

 

災害復興法学

災害復興法学

 

  東日本大震災によってどのようなリーガルニーズが生じ、それによってどのような法改正がなされたか記述した本。

 ①多数のリーガルニーズを処理するための震災ADRの創設。廉価、門戸が広い、サポートが充実、早期解決。

 ②相続放棄の時機を逸しないための熟慮期間の延長。行方不明の認定が困難なため、行方不明者の死亡届を簡易化。

 ③震災によって営業困難となった事業者を救済するための支払い猶予措置。ブラックリストに載らず、手元に相当の金を残せ、連帯保証人に請求がいかない。

 ④災害弔慰金支給対象の兄弟姉妹への拡大。

 ⑤災害が起こったときの借地借家関係について、罹災法が現代に適合しないため大規模災害借地借家特別措置法としてアップデート。

 ⑥マンション法制において、財産処分の決議要件を緩和し処分しやすくした。

 ⑦要支援者を災害時に支援するために、個人情報を関係機関に広く提供できるようにした。

 本書は、このような法改正を実施するにあたって、現場に赴いた弁護士の情報収集によるデータベースが大きな貢献を果たしたとしている。震災時、行政はリーガルニーズを集めるのにそれほど適していなかった。やはり法律の専門家が重要な役割を果たしたのである。それにしても、これだけの法改正を困っている人たちのために迅速に行った日本の議会も捨てたものではないし、もちろん現場で活躍した弁護士には大変恩義を感じる。まだまだ日本も捨てたもんじゃない。

 

 

安楽玲子『住まいで「老活」』(岩波新書)

 

住まいで「老活」 (岩波新書)

住まいで「老活」 (岩波新書)

 

  人生100年時代と言われる現代において、高齢化の際にどのような工夫が必要かについて書かれた本。

 何よりも、健康寿命を延ばすことが第一であり、そのために予防的な食事上の工夫や運動上の工夫、頭を使う習慣の工夫などが必要である。そうすることで介護の負担が減る。

 介護が必要になってしまっても、なるべく介護の程度を抑え、そのために住宅のバリアフリー化が重要である。トイレやお風呂に簡単に行けるようなリフォームをするだけで、身体的にも精神的にも負荷が減る。

 また、整理整頓や手すりをつけたり段差をなくしたりすることによる家庭内事故防止、家事や地域活動や趣味・コミュニケーションによる認知症予防が大事である。

 本書は、要介護者を抱える人にとって有益であるだけでなく、自分が年を取ったときの心構えとしても有益である。年老いた親の健康寿命をいかに伸ばし、健康状態の悪化をいかに防ぐか。介護が必要になったときのリフォームの重要性。また、老齢のときにかかるお金の問題にも言及していて、老後破産を防ぐためのアドヴァイスもある。居住福祉の本でもあり、ライフプランの本でもある。