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岡本正『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)

 

災害復興法学

災害復興法学

 

  東日本大震災によってどのようなリーガルニーズが生じ、それによってどのような法改正がなされたか記述した本。

 ①多数のリーガルニーズを処理するための震災ADRの創設。廉価、門戸が広い、サポートが充実、早期解決。

 ②相続放棄の時機を逸しないための熟慮期間の延長。行方不明の認定が困難なため、行方不明者の死亡届を簡易化。

 ③震災によって営業困難となった事業者を救済するための支払い猶予措置。ブラックリストに載らず、手元に相当の金を残せ、連帯保証人に請求がいかない。

 ④災害弔慰金支給対象の兄弟姉妹への拡大。

 ⑤災害が起こったときの借地借家関係について、罹災法が現代に適合しないため大規模災害借地借家特別措置法としてアップデート。

 ⑥マンション法制において、財産処分の決議要件を緩和し処分しやすくした。

 ⑦要支援者を災害時に支援するために、個人情報を関係機関に広く提供できるようにした。

 本書は、このような法改正を実施するにあたって、現場に赴いた弁護士の情報収集によるデータベースが大きな貢献を果たしたとしている。震災時、行政はリーガルニーズを集めるのにそれほど適していなかった。やはり法律の専門家が重要な役割を果たしたのである。それにしても、これだけの法改正を困っている人たちのために迅速に行った日本の議会も捨てたものではないし、もちろん現場で活躍した弁護士には大変恩義を感じる。まだまだ日本も捨てたもんじゃない。