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売買価格の決定の申立

 通常の売買契約において、売買価格についての交渉が決裂すれば、売買は成立しない。そこに裁判所が介入して売買価格を決定して契約を成立させるなどということは私的自治への介入であり、裁判所の決めた価格では売りたくない、買いたくないという人の自律権を侵害する。

 だが、買主・売主の一方が、とにかく買うこと・売ることを望んでいるケースというものがある。その際、売買価格において交渉が決裂しても、裁判所に価格を決定してもらい、裁判所がそう言うならその価格でいいか、という認容が働くことがある。

 株式は譲渡できるのが原則だが(127条)、定款に定めることにより、譲渡制限株式(108条1項4号)を発行できる。譲渡制限株式の譲渡人、譲受人は、株式会社に対して譲渡等承認請求ができる(136条、137条)。株式会社は譲渡等を承認しないとき、その株式を、自ら買い取るか(140条1項)、指定買取人を指定できる(140条4項)。そして、この株式の買取の価格について協議(144条1項、144条7項)が調わないときは、裁判所に対して売買価格の決定の申立ができる(144条2項、144条7項)。

 ここでは、株式の売買において、売主である株主または譲受人を保護し、彼らの「売りたい」という欲求をかなえ、会社等の「買いたくない」という希望は退けられる。株主等には「売る権利」があり、会社等には「買う義務」がある。そのような特殊な売買であるが故、売買価格を公権的に決定し、なんとしても売買を成立させなければならないのだ。