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利益の促進?

 「アクチュアル刑法各論」を読んでいたら、住居者が複数いて、彼らの間で進入の同意不同意が分かれている事案で、住居侵入罪が成立するかどうかについて、「同意者の利益が不同意者の不利益を上回るなら住居侵入罪は不成立」、みたいな説明があって驚いた。これは、読みようによっては、「法益侵害があっても、同じ行為によって別の法益主体の利益になるなら犯罪は不成立」ということになりかねない。これでは、ねずみ小僧が庄屋から金を盗んで貧民にばら撒く行為も不可罰になってしまわないか。

 刑法の基本理念は、一般人に、法益主体の利益になるような作為義務を課すことにあるのではなく、法益主体の不利益になるようなことを避ける不作為義務を課すことにあるはずだ。アクチュアルの当該部分のあとの方には、ちゃんと、同じ住居を支配管理している同意者の同意によって、不同意者の意思の自由(法益)が制約され、不同意者の意思の自由という法益が制限されることにより犯罪が不成立になる、という説明があった。あくまで法益侵害のあるなしで犯罪の成否は判断されるのであって、法益主体の利益の促進が考慮されることには違和感がある。