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物権的請求権

 物権的請求権は、占有の訴え(197−200)をもとにして、占有権にすらそれらの訴えが認められているのだから所有権にも当然それらの訴えに類似したものが認められるだろう、という考慮に基づいて実体法上認められている。それは、返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権である。

 だが、占有権というものは、そもそも利用・収益権でしかなく、所有権のように処分権までをも包摂していない。だから、占有の訴えもまた、利用・収益に対する妨害に対抗するために認められているにすぎない。だが、所有権は客体の処分まで認めている。とすると、処分権能に対する妨害に対抗する権利もまた、物権的請求権には含まれてもよいのではないだろうか。

 この点、債権侵害においては、帰属侵害と行為侵害が分けられている。債権そのものの存在を滅失させるのが帰属侵害で、債権の行使を妨げるのが行為侵害である。物権的請求権は、行為侵害の部分しかカバーしていない。物権的請求権として、物権の存在そのものを滅失させる加害者の行為に対して何らかの対抗手段を用意してもよいのではないだろうか。なぜなら、それは所有権の客体を処分する権能を侵害するものだからである。

 たとえば、加害者が被害者の物を破壊した場合。これは不法行為として構成されることが通常だが、これは明らかな所有権侵害であり、物権的請求権としての損害賠償請求権という構成も可能なのではないか。また、たとえば二重譲渡の事例で、先に買い受けた人間は、あとから買い受けた人間が登記を備えることで所有権を失うが、これも所有権の帰属侵害として、先に買い受けた人に物権に基づく損害賠償請求を認めてもよいのではないだろうか。

 物権的請求権は、行為侵害、すなわち利用収益権の侵害に対する対抗手段としてしか観念されていない。だが、帰属侵害、すなわち処分権の侵害に対する対抗手段としても観念されてもよい気がする。侵害に対する対抗の次元においても、占有権と所有権の違いを反映させるのである。