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法は自ら助けないものを助けない

 最決平7・3・27は、必要的弁護事件において被告人が弁護人の在廷を困難にした場合に、刑訴法289条1項の適用の例外を認めている。つまり、弁護人がいなくても開廷でき、弁護人のいない開廷は違法ではないとするのである。

 一般に、ある法律がある国民の利益のために国の機関に義務を課している場合、その国民が給付の受領を拒絶した場合には、当該機関の義務は解除されると言っていいだろう。例えば、生活保護法7条に基づき要保護者が保護の申請をし、行政庁が法19条に基づき保護の実施をしたにもかかわらず、要保護者が翻意して金銭を受領しないとき。このときは、法19条の適用例外として、保護の実施をしなくてもよくなると解される。

 これは民法の受領遅滞と似ている。受領遅滞責任を法定責任と構成する立場もあるし債務不履行責任と構成する立場もあるが、いずれにせよ、国の機関が、義務の履行のためにやるべきことを尽くしたにもかかわらず相手がその実現に協力しない場合には、当該機関の責任は軽減され、国はもはやその義務の根拠となる法律に拘束されない。

 つまり、「法は自ら助けないものを助けない」のである。国民は国からの利益を享受するためには最低限の協力をしなければならない。国民が利益を放棄すれば、その利益がよほど重大でない限り、国はもはやその利益を実現する義務を負わない。一種の愚行権の保障でもあり、信義に忠実なものほど価値が高く救済に値するという価値判断の表れでもあるだろう。