- 作者: 高橋哲哉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/07/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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法というものは暴力によって成立する。妥当性を最終的に根拠づけるものはなく、常に何らかの根本規範が前提として、暴力的に定立された上に、あらゆる法は存在している。それゆえ、その根本規範が排除し抑圧し沈黙させた他者を想起することが、暴力に対する必要最小限の暴力であり、正義である。脱構築とは、内部/外部、合法/不法などの、二項対立的な価値秩序、すなわち内部の方が外部より優れているとか合法の方が不法より価値が高い、とかを解体し、例えば内部の成立条件として、内部の内部に外部が入り込んでしまっていることを暴露することである。法を定立するということは、必ず、その法が優れているものと宣言し、それ以外のありえた可能性、即ち他者を沈黙させ劣位に置くことである。
それゆえ、その法の暴力を脱構築することが正義なのである。つまり、脱構築とは決定不可能性の体験であり、常に他者の声に応答しつつ、支配的な法に対して他者を呼び込み、既成の法のあり方に疑念を抱かせ、それでもなお決定し続けることである。法は絶えずその法が排除した他者の声による呼び掛けに応えなければその正義を維持することはできない。他者に対して「来なさい」と呼びかける。その呼びかけさえも既に他者によって先立たれている。支配的な価値が存在しないところで、それゆえに安易な決定が不可能な地平で、なおも他者を受け入れつつ、絶えず差異を取り込みながら決定を繰り返していく。それが脱構築であり正義なのである。