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神野直彦『地域再生の経済学』(中公新書)

 

地域再生の経済学―豊かさを問い直す (中公新書)

地域再生の経済学―豊かさを問い直す (中公新書)

 

  工業の衰退によって地方都市は衰退し、商業の衰退とともに財政が立ち行かなくなる。ヨーロッパでは市場主義によらず、自然的・人間的・文化的な地方を作り上げることで、地方都市の再生を図っている。それは人間の生活の場を作り上げる作業であり、グローバリズムに安易に靡かない姿勢である。

 農業社会では生産機能と生活機能が重なり合っていたが、市場社会の成立により、生産機能が共同体から分離されるようになった。つまり工業社会の成立である。工業社会では工業都市に生産機能が集中し、都市に人口が集まっていく。さらに、重化学工業化により工場組織と事務所組織が分離し、東京や大阪といった中枢管理都市に事務所組織が集中するようになる。ところが現代、工業は衰退している。工業の衰退は地方工業都市の衰退、さらには巨大都市の衰退を招き、地域社会は破局へ向かっている。

 人間の生活は地域共同体コミュニティで営まれている。財政学は、市場経済の外側にある非市場経済をも考察の対象とし、地域共同体を重視する。そして、地域共同体の個性を重視する。家族や共同体が提供していたセイフティ・ネットを重視するのである。

 日本では1980年代に四全総によって大都市重視の方向に国土政策がシフトしていった。東京一極集中、民間活力の導入。情報化・知識化という産業構造の変化、経済のグローバル化に対応するため、大都市を世界都市として整えなければならなかった。だがそれは地域格差を拡大させてしまった。

 日本の地域社会は地域文化を喪失している。生まれてから死ぬまでの生活を地域社会の中で完結できるような地域の形成が望まれる。そのために地方分権が望ましい。地域社会が再生するためには地方自治体が歳出・歳入の面で自己決定権を持たなければならない。具体的な税制としては、経済力に応じた部分は国税、経済力に応ぜず公共サービスの利益に応ずる部分は地方税にゆだねる。そして、使い尽くすという意味での「消費」に近いものについては地方税にゆだねる。また、個人住民税を比例税率にすれば、貧しい地方の税収が増え、豊かな地方の税収が減る。交付税にしても、中央政府の意向を媒介にすることなく、自治体相互間の自発的調整の基金として位置付けるのが望ましい。

 知識社会に向けて、人的投資が重要になる。人間のきずなによって人々の知識を増していくのである。さらに自然環境を保護するともなれば、継続的な人間的接触が必要であり、地域社会における人と人とのつながりが重要になってくる。

 本書は、衰退する地域社会に対する再生のシナリオであり、何よりも財政的に、税制を変えて地方の自己決定権を強めることが重要であるとする。そのことによって、地方の個性に応じた地域社会が出来上がり、住民の生活の場は整備され、人と人とのつながりも維持されて知識社会にも対応できる。実際、少子高齢化や経済格差が進む現代、社会のセイフティ・ネットとして地域社会の果たす役割は大きくなっている。もはや工業に依存することが出来なくなった現代では、知識産業をどんどん地方に誘致することで、地域の再生は可能だろう。何よりも、地域が衰退することは大きな無駄を生む。それは伝統や文化の喪失という無駄でもあるし、耕地や用地といった土地資源の無駄でもある。市場主義の引き起こす外部不経済にもっと敏感になり、非市場経済の外部経済を重視しなければならない。