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元研究者志望者の社会人としての就職について

 私は大学院を修了している。初めは研究者を志望していたのだ。だが、アカデミックポストをめぐる現在の状況を鑑み、早いうちから自立するため普通のサラリーマンとして就職した。そこで直面したのはカルチャーショックだった。研究者の世界と社会人の世界ではかなりハビトゥスが違う。その断絶を克服することが私に初めに課された課題だった。

1 議論・批判はしない方がいい
 研究者にとって、論理はエチケットである。議論をすることや建設的な批判をすることはマナーですらある。ところが、社会人にはそこまで厳密な論理は要求されないし、初めのうちはただ上から言われたことを文句言わずこなしていればいい。
 研究者はだいたい自分なりの理論化されたポリシーを持っている。ところが、社会人として生きていくにあたってそういったポリシーはむしろ邪魔になる。柔軟な姿勢を持ち、様々な人の意見を等しく聞き、決して相手の優位に立たず、とにかく仕事について有益なことを述べればいい。

2 教養は隠した方がいい
 研究者はたいてい幅広い教養を持っているものである。だが、社会人は総じて教養の水準が低い。だから、周りの人たちに変に劣等感を持たれないためにも、自分の教養は表に出さない方がいい。
 雑談するときも、研究者相手に雑談するのではないのだから、教養が要求されるような話題を選ばず、誰もが安心して話せる話題を選ぶ。とにかく社会人の世界は出る杭が打たれる世界である。出る杭にならないために、教養は隠しておく。

3 自分は変わり者である
 研究者はたいてい少し変わっている。マイペースで自閉的で、おとなしくぎこちない。人間関係を楽しむよりは読書や芸術鑑賞を楽しんできた人種である。ところが、社会人の多くは勉強よりも人間関係を楽しんできた人たちである。そういう人たちに比べて研究者は人間関係のスキルが劣るものだという自覚が必要である。人間関係のスキルはいきなり身につかないので、焦らず少しずつ身につけていけばいい。それまでは変わり者でかまわない。

4 自分にはメリットもデメリットもある
 研究者は知識の習得が速い。また高度な仕事も迅速にこなす傾向がある。そういった事務処理の観点からは研究者にメリットがある。一方で、研究者は空気を読んだり柔軟に対応したりすることが苦手であり、周りになじむのも苦手である。その点でデメリットもある。メリットを伸ばしつつデメリットを少しずつ改善していき、より良い人材になっていく必要がある。