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下田淳『ヨーロッパ文明の正体』(筑摩選書)

 

ヨーロッパ文明の正体: 何が資本主義を駆動させたか (筑摩選書)

ヨーロッパ文明の正体: 何が資本主義を駆動させたか (筑摩選書)

 

  ヨーロッパで資本主義が発達した要因について解説した本。

 今西錦司の棲み分け論を歴史学に応用すると、二つのレベルで考えることができる。

①自生的・生態学的棲み分け 生活場所の分かち合い。ヨーロッパでは分散・競合して均衡するような人口・権力の棲み分けが行われた。

②能動的棲み分け 積極的・強制的棲み分け。空間や時間などを積極的に整理整頓・スケジュール化する。

 ヨーロッパに特徴的な自生的・生態学的な人口と権力の棲み分けが、市場の棲み分けを生み、そこから万人が富の分配を受けるチャンスのある富の棲み分けが生じた。権力が分散しているため上からの圧力が弱く、人々は富の棲み分けにより理系に舵を取り、科学技術が発達した。また、富の棲み分けは農村に貨幣関係のネットワークを生み出し、これが19世紀に資本主義社会として制度化された。

 本書は、ヨーロッパの資本主義を棲み分け論から説き起こしている画期的な本である。ヨーロッパは人々が分散し、小都市が分立してそれぞれに権力を持っていたため、上から弾圧されることなく市場や科学技術が発達した。それが貨幣関係のネットワークを発達させ資本主義を生み出す。一つの仮説として面白いが、もちろん資本主義はもっと複雑な要因で生まれてきたのだろう。歴史学において仮説を立てることの面白さを感じた。