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貴戸理恵『「コミュ障」の社会学』(青土社)

 

「コミュ障」の社会学

「コミュ障」の社会学

 

  主に不登校をめぐる社会学的研究。

 コミュ障というものはコミュニケーション障害の略であり、主に学校や企業でその場の輪に溶け込めない状況を指す。コミュ障の人は居場所がないなどの生きづらさを抱えている。

 学校で居場所がないといえば不登校問題がある。これについては不登校を病理とみなす立場から、多様な生き方の一つとみなす立場への転換があり、もはや学校や企業にちゃんと通うということが「正常」でそれができないのが「異常」という考えは取られていない。誰もが生きづらさを抱える現代、不登校はその生きづらさの一つの形態でしかない。

 不登校などコミュ障に苦しむ人たちが、自らの居場所を見出すためにフリースクールなどが発達している。そこでは彼らは当事者として主体的に語り、また他の当事者の声に耳を傾け、対話やアウトプットに励んでいる。それは必ずしも治療を意味せず、学校や企業に復帰することが目的でもない。

 本書はコミュ障についての社会学的研究であるが、内容としては不登校についての研究が大半を占める。学校や企業というところになじめない人たちの生きづらさについての研究である。世の中に居場所がない人たちは一定数いて、そういう人たちを否定するのではなく多様性の一つの形態としてありのまま受容するということ。それは現代社会に必要な態度なのではないか。