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佐藤卓己『流言のメディア史』(岩波新書)

 

流言のメディア史 (岩波新書)

流言のメディア史 (岩波新書)

 

  デマについてメディア史の観点から概観し、デマへ向き合う態度を提言する本。

 火星人来襲のデマ、関東大震災後の朝鮮人に関するデマ、二・二六事件に関するデマ、戦時中・戦後期の流言、ビキニ水爆実験後の風評被害など、これまでの歴史の中で多数の流言が流されてきた。

 だが、メディア流言はなくなることがない。なぜなら、それは社会変動に伴い人々が不安の解消を求めて行うコミュニケーションの所産だからだ。そして、正しさや真実をことさらに追及することにはそれほど重要性がなく、正しさよりも効果的であるかどうかがコミュニケーションにとっては重要だったりする。

 流言はあいまいな状況に共に巻き込まれた人々が自分たちの知識を寄せ集めてその状況を有意に解釈するコミュニケーションであり、情報構築なのである。だから、現代のメディア・リテラシーとはあいまい情報に耐える力である。

 本書は新書ではあるがかなり重厚に構築されたメディア史であり、流言という観点から見た20世紀日本、という感じである。流言の事例が一つ一つ丁寧に説明されていく中で、いかにそれらが人々の不安やストレスによって生み出されたか描かれていく。確かに唯一の真実や絶対的な正しさなどこれからの情報社会では望むべくもなく、あいまいな情報をいかに活用するかに重点が置かれていくであろう。