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中西嘉宏『ロヒンギャ危機』(中公新書)

 

 ミャンマー少数民族であるロヒンギャに対するジェノサイド疑惑に関して丁寧に叙述している。ロヒンギャとはラカイン州に住む無国籍のムスリム少数民族である。植民地期に流入した少数民族は、ミャンマー人にとって「国民の他者」として疎外されてきた。そして、ミャンマー軍事政権ではロヒンギャは安全保障上の脅威として弾圧されてきた。2010年代に進んだ民主化の波は人々に自由を与える一方宗教上の対立も生み出した。そして2017年にはロヒンギャ武装組織がミャンマー軍部の施設を襲撃し、その報復としてミャンマー政府はロヒンギャを掃討した。国連や国際司法機関はこの掃討作戦をジェノサイドとして国際法上の罪に問おうとしている。

 アジアといってもそれほど身近ではないミャンマーのジェノサイド事件であるが、事件の重大性を考えるとそんなに他人事とは思えないし、世界各地で起こっている宗教上の対立について考える上で非常に参考となる事例である。異質なものたちを排除しようという人間の暴力的性質がここまで大掛かりに発展してしまうのは極めて異様である。ユダヤ人問題にしろ、民族的迫害については深く思考しなければならないだろう。