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坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)

 

 本書は職場におけるいじめやハラスメントについて、豊富な具体例をもとにその背後にある構造を探っている。最近のいじめは、過酷な労働環境の下で起こることが多く、職場全体が加害者化し、企業もいじめを放置することが多い。最近のいじめは、厳しい労働環境の下で働かせ続けるため、同僚までもが自発的に行うほど浸透した労務管理システムであるかのようだ。過労職場では、いじめは解決コストの回避となり、ストレス発散によるガス抜きとなり、職員を抑圧することで仕事のことしか考えさせなくする効果がある。また、いじめは教科書的な理想的な働き方をする人間に「現実的」なやり方を教え込む矯正の役割を果たし、矯正されない「不適合」な職員を排除するために用いられ、従順でない職員をいじめることで他の職員への見せしめとなる。

 本書で挙げられる具体的ないじめの事例は目を覆うほど残酷なものばかりだ。このようにいじめがエスカレートしていくのは、加害者の資質の問題だけでなく、職場の構造が背後としてあるというのが本書の主張だ。特に、いじめが職員による自発的な労務管理システムとして機能しているとなると、これを根絶するのはなかなか難しいと感じる。そして、いじめは代々受け継がれてきたものであり、職場に限らず日本社会全体に同じような構造があることに気付かされる。いじめは解決の難しい問題だと改めて思った。