社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

藤田・宮野『愛』(ナカニシヤ出版)

 

愛 (愛・性・家族の哲学 第1巻)

愛 (愛・性・家族の哲学 第1巻)

 

  愛の思想史をなす論文集。

プラトンの哲学をベースに、古代ギリシアの最終的にはイデアへとの合一を目指す愛について説明した近藤論文。

②聖書におけるアガペーについて、人間から神への愛、自分への愛、隣人への愛としての側面についても論じた小笠原論文。

カール・バルトの結婚論について論じ、プロテスタンティズムの神の召命としての結婚観について説明する佐藤論文。

シャルル・フーリエの恋愛を題材とする戯曲を分析して恋愛の倫理を分析した福島論文。

⑤『崖の上のポニョ』と『古事記』を比較することで恋愛の諸要素を分析した藤村論文。

⑥近代日本において「愛」という言葉が中国語や英語からいかに受容されたかを論じた宮野論文。

 愛の哲学についてまとめて扱っている本は少ないので、貴重な本だと思う。ただ、愛の本質について哲学的に論じるものは意外と少なく、過去の学説の紹介にとどまっているものがほとんどであったが、それでも知らない学説はいろいろとあり、参考になった。このシリーズは三部作であるが、次の巻『性』も読み始めたい。

中原淳『職場学習論』(東京大学出版会)

 

職場学習論―仕事の学びを科学する

職場学習論―仕事の学びを科学する

 

  職場での学習について科学的に分析した本。

 能力向上に対する同僚・同期からの支援は少なくない。仕事についての気づきをもたらす内省支援や仕事のスキルアップをもたらす業務支援において横のつながりは大事である。

 また、成功経験談も失敗経験談も業務能力の向上に貢献しており、組織レベルの信頼がその効果を押し上げている。

 本書は、職場においてどのアクターがどのような点でどのような能力向上をもたらしているか定量的・科学的に分析した経営学のお手本のような本である。水平的なつながりが重要であること、信頼関係が重要であることなどが科学的に実証されているので、自らも心掛けていきたい。

山崎亮『コミュニティデザインの時代』(中公新書)

 

コミュニティデザインの時代 - 自分たちで「まち」をつくる (中公新書)

コミュニティデザインの時代 - 自分たちで「まち」をつくる (中公新書)

 

  建造物をデザインするのではなく、人のつながりをデザインするコミュニティデザインの試み。

 人々は個人主義の台頭の中、再びつながりを求めている。そこで自発的なコミュニティによりどころを求め始めている。箱ものを作る時代は終わり、これからはそういうコミュニティにおける人と人とのつながりを設計する時代だ。日本は早くから人口減少に悩まされてきたのだから、人口減少については先進国である。人口減少を所与のものと受け入れて、うまくコミュニティの規模や態様をデザインする必要がある。

 コミュニティデザインには四段階ある。ヒアリング、ワークショップ、チームビルディング、活動支援である。その地域の現状を聴きとったうえ、住民に街づくりについての意見を出してもらい、実際に人に役割を振り分け、その後の活動を見守ることである。

 本書は、人口減少時代をありのままに受け入れたうえで、その際に必要なつながりをデザインする取り組みを行っている先駆者の著作である。発想がかなり現代的で、「新しい公共」論とか「社会関係資本」論とかが具体的にこのような実践として現れたか、という感じである。今までいろんなところで読んできた現代社会への処方箋が今ここで実践されている。素晴らしい。

森山至貴『LGBTを読みとく』(ちくま新書)

 

LGBTを読みとく: クィア・スタディーズ入門 (ちくま新書1242)

LGBTを読みとく: クィア・スタディーズ入門 (ちくま新書1242)

 

  今や知の最先端となっているクィアスタディーズの入門書。

 LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーのことである。トランスジェンダーには自らの性自認が自らの身体的な生別と異なるトランスセクシュアル、自らの性自認が他者から割り当てられたジェンダーと異なる狭義のトランスジェンダー、異性装をするトランスヴェスタイトがある。

 LGBTの地位を向上するためにクィアスタディーズという理論的な営みがなされており、そこでは、「差異に基づく連帯の志向」「否定的な価値づけの積極的な引き受けによる価値転倒」「アイデンティティの両義性や流動性に対する着目」が基本的な視座になっている。社会的な性も身体的な性も、両義的であり流動的であり、本質はどこまでも移ろっていく。劣位に置かれているセクシュアリティの人々によるマジョリティへの価値転倒による異議申し立てなど、LGBT理論武装は強固である。

 昨今急激に市民権を得ているLGBTであるが、その市民権獲得のためにはこのような理論的な営みが背景にあった。学問による理論武装が社会的地位の向上のために役に立つのであれば、人文知もまだまだ捨てたものではない。人間の問題はまだまだ人文知により解決の見込みがあると思う。

大澤聡『教養主義のリハビリテーション』(筑摩選書)

 

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書)

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書)

 

  教養主義のじっくりとしたリハビリを行い、新たな教養論を期した本。

 教養のための教養の時代は終わり、これからは現場に応じて臨機応変に対応していくための現場的教養や、人とのつながりによって連鎖的に知を広げていく対話的教養が求められる。

 かつて、教養の土台となったものは主に読書であったが、昨今のメディア状況を鑑みると、読書の位置づけは特権的なものから相対的なものと変わっており、新たな教養の土台が探られている。

 現代は「知識蓄積型」から「意見発信型」へと社会の構造が変わっているが、知識は言わば底辺をなすものであり、その広がりがあってこそ意見もより高みを目指せるのである。

 本書は、大澤聡が鷲田清一竹内洋吉見俊哉と対談している現代の教養論である。鷲田、竹内、吉見はそれぞれに教養について一家言もつ学者たちである。彼ら大家と話すことで、教養について非常に生産的な対話が実現されている。新時代の教養について考えるにあたって、まずはリハビリを。