社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

今野晴貴『ブラック奨学金』(文春新書)

 

 

ブラック奨学金 (文春新書)

ブラック奨学金 (文春新書)

 

  私も学生時代奨学金を借りた。大学時代と大学院時代、合わせて400万円くらい借りたと思う。就職して順調に返済し、今では残額が100万円ほどになっている。だが、最近の雇用状況の悪化や本人の健康状態の悪化などにより、奨学金の返済が滞り、保証人にまで請求が行ったり裁判を起こされたりというケースが後を絶たず社会問題化している。奨学金の社会問題としての側面を扱った本として今野晴貴『ブラック奨学金』がある。
 まず、奨学金は教育ローンだという現実を直視しなければならない。そして、今は無利子貸与よりも有利子貸与のほうが件数が増えている。ローンということは、後々の人生によっては返せなくなることも十分想定されるということである。そのリスクを考えた上で奨学金を借りる決意をしなければならない。
 そして、奨学金の取り立ては厳しい。1か月滞納しただけで債権回収業者から電話がかかってくるし、滞納が続くと延滞金とまとめて一括請求され裁判を起こされる。現在、非正規雇用などが一般化してくるにつれて奨学金を返せない若者が増えていて、そういったときの免除措置などが充実していない。奨学金は弱者からも等しく債権を回収しようとする。
 私は今順調に奨学金を返済しており、このまま返済し終わる予定であるが、この奨学金という制度は国際的にも例が乏しいほどの日本の教育軽視から生まれていて、諸外国では給付制のものが一般化している。日本でももっと学生の経済的側面への支援が求められるところである。

樺沢紫苑『神・時間術』(大和書房)

 

脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術

脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術

  • 作者:樺沢 紫苑
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2017/04/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 日本ではつとに労働生産性の低さが指摘され、働き方改革により労働効率アップ、プライベートの充実が叫ばれている。だが仕事だけではない。人生そのものにおいて生産的である技術を紹介している本として樺沢紫苑『神・時間術』を紹介しよう。著者は精神科医であり、科学的知見をふんだんに取り込んで説得的に効率的な生き方を教えてくれる。
 まず、仕事には集中を要するものと集中をそれほど要しないものがある。集中を要する仕事は朝に持ってくる。なぜなら、朝の時間は夜の時間の4倍の価値があるから。人間の脳は覚醒時もっとも集中力が高く、その後午後に至るまでどんどん集中力が落ちていくのである。そして、大事な原則だが、集中力を高めようとするのではなく、集中力の高い時間を利用してたくさん仕事をするのである。
 読書などで自己投資をすることは重要である。そのことによって仕事の効率がアップし、仕事を早く切り上げることができる。仕事を早く切り上げることができれば、空き時間をさらに自己投資に割り振ることができて、さらに仕事の効率を上げられるという正のスパイラルが生まれる。
 集中力が高い時間を作りだすために、睡眠は重要である。また、朝シャワーや朝日光を浴びることも重要である。また、45分ごとの休息や仕事後の運動など、その後の集中力を高める生活習慣はいろいろあるので、そういうものを生活の随所に取り込んで集中力の高い時間を作りだす習慣を作るといい。
 最近の働き方改革は組織が主導するものであるが、その実践の主体はあくまで個人である。個人がこのような生活術を習慣化することにより、集中力の高い時間を多く確保し、高い生産性を手に入れることができれば、働き方改革も成功に導かれるのではないだろうか。

夫婦でともに読む本

 私たち夫婦は二人とも本が好きである。とはいってもお互いに本の趣味は違うから、読んでいる本はお互いに違う。それでも、二人とも共通で興味のある本というのもある。それが夫婦関係に関する本である。

 今まで夫婦でともに読んだ夫婦関係の本としては、北杜夫マンボウ恐妻記』、はあちゅう『旦那観察日記』、黒川伊保子『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がある。どの本も、私たち夫婦の間に出現する問題はどれもほかの夫婦でも起こりうるものであり、その問題について私たちだけのものとして深刻に考えなくていいんだ、と教えてくれる。夫婦間の問題というものは人類普遍のものであり、それは適切な対処法を取れば解消できるのである。

マンボウ 恐妻記(新潮文庫)

マンボウ 恐妻記(新潮文庫)

  • 作者:北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/09/04
  • メディア: Kindle
 

 『マンボウ恐妻記』は、ひと時代前の夫婦関係について書いているが、暴走する夫とそれを阻止する妻という幾分極端な夫婦関係が描かれていて、私たちの関係はもっと穏やかだよなあと安心したり、こういうことが将来起こったときの覚悟ができたりする。

旦那観察日記~AV男優との新婚生活~

旦那観察日記~AV男優との新婚生活~

 

 『旦那観察日記』は新婚夫婦のあれこれを描いたものであり、我々も読んだ当時新婚であったから、とても共感して新婚特有の問題を共有することができた。

妻のトリセツ (講談社+α新書)

妻のトリセツ (講談社+α新書)

  • 作者:黒川 伊保子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/10/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
夫のトリセツ (講談社+α新書)

夫のトリセツ (講談社+α新書)

 

 『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』に至っては、ストレートに夫婦間の問題を取り上げ、それへの対処法を指南してくれる。しかも脳科学の知見に基づいて科学的に助言してくれるのである。

 私たちはこういった本を共に読むことで、夫婦間の危機があってもそれを私たちだけの問題ととらえず夫婦にありがちな問題だととらえ、本に書いてあった通りだと納得し、本に書いてあった処方箋でもって対処する。もちろん、本に書いていないあれこれの方が圧倒的に多いわけであるが、いわば私たちは双方に味方を付けている状態なのである。本を通じてお互いをよりよく理解し、争いを低減すること、ひいては離婚を回避すること。夫婦でともに夫婦間の問題について読書することは好ましい。

 

大牟羅良『ものいわぬ農民』(岩波新書)

 

ものいわぬ農民 (岩波新書 青版)

ものいわぬ農民 (岩波新書 青版)

 

 私は東北の農村で生まれ育った。大学時代に上京し、その後仙台で大学院生活を送り、今はまた生まれ育った県でサラリーマンをしている。私は都会での生活が長かったこともあるし、常々ネットや本で最新のものの考え方をインプットしているから、昔ながらの農村の考え方にはもう染まっていない。だが、子供の頃、父母や祖父母から押し付けられた価値観はまさしく農村の価値観だった。
 大牟羅良『ものいわぬ農民』には、戦後間もないころの農村の厳しい暮らしや、そこでの封建的な価値観が記されている。キーワードとなるのは「ひとなみ」と「つきあい」だ。周りの家がやることは自分の家でもやる。逆に、周りの家でやらない事は自分の家でやらない。このように農村では常に世間体が重視され、人並みであることが求められる。そうすることにより、近所との付き合いは円満になされる。人並から外れたことをやろうとすると、付き合いから排除され村八分にされる。
 私の父親もまた、農家の長男であったが、世間体をすごく重視する人である。私が職に就かず国家試験の浪人をしていた時もその世間体の悪さをすごく気にしていたし、私が未婚であるときもその世間体の悪さを気にしていた。父親は私に「ひとなみ」を要求していたのである。そして、私が「ひとなみ」になると父親も共同体の中で安定した立場でいられるのである。私がいつまでも「ひとなみ」に至らないと、父親がいろいろと非難されるわけである。
 同書には、農村の嫁の立場の弱さについても書かれている。事実、私の母親も農家の嫁に来た事で、発言権がなかったり総体的に自由がなかったり、些細な事で非難されたりとずいぶん苦労したようだ。
 戦後間もないころの農村の価値観は今もそれなりに残存しているし、これは根深いところで日本国民全体を規定しているように思われる。

 

速水健朗『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21)

 

 現代の都市は効率化の波にさらされている。至る所を最大限有効利用しようと、様々な工夫がなされている。例えば市街地の空いている土地にコインパーキングを設営したり、公共施設や病院に民間のカフェやコンビニを誘致したり、サービスエリアを民営化したり、駅や空港など公共の空間をショッピングモール化したり。

 速水健朗『都市と消費とディズニーの夢』によると、このように、新自由主義的な思想のもと競争原理を導入して公共的なスペースを最大限有効活用することをショッピングモーライゼーションという。新自由主義的な街の変化である。速水は同書において、ショッピングモールの思想と歴史について詳述し、現代の都市の風景の起源と変遷について丁寧に叙述している。

 確かに、現代の都市の風景を眺めると、そこにはリベラルな景観重視であるとか環境重視であるとかそういうモーメントよりも消費を最大化するモーメントの方が目立つ。現代の都市は消費に最適化され、そのインフラとして強力なのがショッピングモールというわけである。

 その一方で、都市化から離れた名所名跡はいまだ新自由主義の波にはされされていない。景勝地においてはそこを中心にショッピングモールができていたりということはほとんどない。景勝地においてはいまだ自然重視の力学が働いている。

 効率化や合理化、有効利用の思想は消費を最大化し利益を最大化するという資本主義の落とし子であり、現代の都市はその波にさらされている。一方で、非効率で非合理的で大して有効利用されていない空間もまだまだ地方には残っている。それぞれの存在意義が問われているように思う。