社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

小椋力『写真健康論』(日本評論社)

 

写真健康論

写真健康論

 

  写真が健康に結びつくことを論じた先駆的な本。

 体の健康のためには食生活と運動に気を配る必要がある。心の健康のためには発症危険要因を減弱させレジリエンスを増強する必要がある。望ましい心の健康のためにはポジティブ心理学が有効であり、感謝、強みを意識、経験を味わう、現在を味わう、瞑想などが有効である。

 写真の鑑賞・撮影・選択・展示のいずれも、心と体の健康を高める。写真は運動を伴う行為であるし、そこでは心が整えられ、芸術療法的に心を豊かにする。写真療法(photo therapy)はこれまでも様々に試みられており、自己受容、死や老いの克服、感情の共有、被承認、自尊・自己肯定が導かれるとされている。

 本書は類書を見つけることが困難な書物である。写真だけでなく、芸術や趣味が健康に役立つことはよく実感として現れるが、それを理論づけ系統立てて論じるのは難しい。本書は写真についてその健康力を説得的に論じようとしているが、なにぶん先駆的な分野であるために議論が熟していない感じを受ける。だが、これからこの領域は開拓されていくと感じる。とりあえず単著が出ただけでも前進であろう。

仕事と恋愛

 仕事と恋愛は似たような構造をしています。特に結婚を前提とした恋愛の場合、相手と少しずつ距離を詰め、付き合いの段階を少しずつ上げていき、遂には婚約にたどり着き、さらに結婚という具合で、目標に向けて地道に努力するという力が試されます。デートコースを考えるにあたっても様々な情報収集が必要だし、スケジューリングをうまくやらないといけません。そうすると、恋愛で異性と付き合う場合、特に男性の方には仕事を遂行する能力と同じような能力が必要とされます。仕事においても目標に向けたステップを踏んだ地道な努力が必要だし、情報収集やスケジューリングは重要です。だから、仕事のできる人は恋愛を成就させる可能性が高いのかもしれません。
 また、恋愛において心が満たされることは、労働者の作業効率を上げ、レジリエンスを高めます。恋愛によって幸福になった心身によって仕事は捗りますし、少しトラブルがあっても心の回復が速いです。恋愛は経営上好ましいものです。
 また、恋愛によって余暇の過ごし方が変わってきます。それまでただ何もしない休日だったのが、異性と付き合い始めることで途端に活発になる。色んな所に出かけたりするようになる。余暇がそれまでの空疎なものからより充実したものとなります。
 恋愛にはお金がかかります。その分、労働者はお金を稼ごうと努力します。仕事を一生懸命やって成果を挙げようとします。結婚も見据えるとなると、結婚資金を稼ぐために労働者は躍起になり、また出費の無駄を減らすようになります。お金を媒介とした労働者の意欲の向上も無視できません。
 そのような形で、恋愛は仕事にとってプラスの効果を及ぼすことが多いと思います。ぜひとも労働者には積極的に恋愛をしていただいて、仕事の効率を上げ、会社によりよく貢献してもらいたいものです。

『メンタルヘルス・マネジメント検定試験二種 重要ポイント&問題集』

 

  二種になると労働法の知識が要求されたり、管理者側の視点が要求されたりする。部下の不調にどう気づくか、部下の不調にどう対処するかなど、様々に論点が膨らんでいく。

 要点がまとまっていて、また実際に演習形式で問題を解いてみて、かなり参考になった。この調子で一種も突破したい。

合田正人『入門 ユダヤ思想』(ちくま新書)

 

入門ユダヤ思想 (ちくま新書)

入門ユダヤ思想 (ちくま新書)

 

  様々な哲学者によるユダヤに関する思想を入門的に集めたもの。

 ユダヤにとって無限と向き合うことは重要である。無限と有限という橋渡しできないものを架橋し、人知を超えた無限に人間の生活を適合させようとする不可能な業が文字であり言語であり解釈であった。

 ユダヤにとって、非存在としての輪郭線や境界として生きること、抗争とパラドクスの舞台であることは本質的である。それであるからこそ平和の思想が生まれる。

 ユダヤは法の下に生活の全体を位置づけ、「散在体(ディアスポラ)」をも選び取り、数々の強力な異端を生み出し、表面的背教を選び取り、非道な侵略者のレッテルを貼られながら生きてきた。

 ユダヤというものについては聖典があり宗教があり、また数多くの哲学者が論じてきた。このユダヤという深遠についての、本書はささやかな入門書であるが、それでも十分重厚で難解である。本書では様々な哲学的思惟のさわりしか書かれていないため、原典に当たり理解を深める必要がある。それにしてもユダヤというもの、それもまた無限であり人知の及ばない莫大なものなのかもしれない。

真下信一『思想の現代的条件』(岩波新書)

 

思想の現代的条件 一哲学者の体験と省察(1972年) (岩波新書)
 

  唯物論哲学者による、戦後の時代への哲学的処方箋。

①「思想者とファシズム」。日本人はファシズムに対し無力であり無責任であった。ヨーロッパでは、ファシズムに加担したハイデガーファシズムに受難したヤスペルス、ファシズムの汚れた手をねじ伏せるために手を結んだサルトル、といった風に、実存哲学者でも態度が分かれた。

②「思想の現代的状況」。戦後、哲学的思惟においていかなる共有の地盤も失われた。ネオ・トミズム、実存主義分析哲学弁証法唯物論は互いに断絶しており相互批判を繰り返している。

③「現代思想ヒューマニズム」。戦後、哲学は区々に断絶したが、それでも共通の課題を持っていたはずである。それが、人間疎外と自然破壊と戦争であり、これについてはどの思想も共通の問題意識を持てる。人間が機械化していく中でこそ、人間を深く信じ、豊かなものとしていくヒューマニズムが求められる。

 第二次世界大戦とその後の世界的な哲学的状況はどのようなものであったか、この3つの論文によってだいぶ見えてくると思う。本書からは、真下の焦燥がうかがわれる。どこまでも分裂していく哲学というものを、人間全員が直面している課題のもと集結して解決に導きたいという情熱がうかがわれるのである。当時の時代状況が見えて面白かった。