社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

佐藤・武石『ダイバーシティ経営と人材活用』(東京大学出版会)

 

  現代の組織の経営サイドの喫緊の課題となっているダイバーシティ経営についての論文集。

 現代の組織では、これまで中核人材として活用してきた「日本人男性で、フルタイム勤務かつ転勤や残業の要請に対応可能」な人材層だけを用いることが困難になってきた。転勤や残業を望まない労働者、女性労働者の活用、ワークライフバランスの要請や介護などとの両立から、これまでの中核人材の調達が困難な状況となっている。

 本書は、転勤の問題や女性管理職の問題、WLBの問題などを一つ一つ取り上げ、そこで経営陣のダイバーシティ経営への理解や柔軟性のある取り組みが要求されていることを浮き彫りにしている。これからの組織経営の在り方として、様々な要望を持つ労働者を多様に管理していくことが求められている。

 この本は、いちばんは管理職の層に読んでもらいたい本であるが、非管理職の労働者であっても自らの働き方や自らが直面している悩みへの対処法を学ぶ上で有用である。いろんな人々に広くお勧めしたい優れた本である。

筒井淳也『仕事と家族』(中公新書)

 

  仕事と家族のこれからのありかたを指し示す提言の書。

 工業化に伴い、戦後の一時期には「安定的に雇用された男性と家庭の責任を持つ女性」という性別分業体制が各国に定着した。だが経済成長の低迷に伴い、「高負担・高福祉」を堅持したスウェーデン、「低負担・低福祉」路線のアメリカという二つのモデルが登場した。スウェーデンアメリカはどちらも女性の有償労働への参加率が高く、それが高い出生率へと結びついている。

 そこで、日本がとるべき道として「共働き社会への移行」が挙げられる。女性の社会進出はある時点までは出生率にマイナスの影響を持ったが、ある時点からは女性が働くことがカップル形成や出生にとってプラスの効果を発揮し始めた。有償労働の世界で女性・高齢者・移民が働くことがケアワークの活性化を通じて出生力の向上を促す。

 本書は家族社会学の立場から日本の出生力を上げるための女性の働き方について国際比較をもとに提言する本である。随所に鋭い考察がちりばめられていて、女性の社会進出の問題、出生力の向上の問題について示唆に富んでいる。非常に学ぶところの多い本であるので、いろんな方にお薦めしたい。

復興の現場で

 私は平成28年度から3年間、福島県の相双地方で主に復興工事にかかわる仕事をした。この度の人事異動で、同じ相双地方ではあるが現場とは離れた仕事となるので、少し今までの3年間の現場での仕事について思うことをまとめておきたい。

1 復興はまだまだ道半ば

 復興は着実に進んでいる。例えば海岸の堤防建設などはほとんど終わりが見えているし、終了した工事は数えきれないほどある。一方で、帰還困難区域については先行きが見えない状況にあり、放射性物質とどう戦っていくかという課題はまだまだずっと先へも残る。復興はまだまだ道半ばであり、これからも膨大な人たちが膨大な仕事量を投入していかなければならない。

2 人々の気持ちは前向き

 原発事故によって被害を受けた人々と接する機会が多かったが、彼らは特段被害者面をしていず、むしろ日々の生活を当たり前に楽しんでいる。もちろん、彼らの心には消えない傷が残ってはいるが、だからといっていつまでも意気消沈しているわけではなく、未来へ向かって着実に希望を持っている人がほとんどであった。これは希望の持てることである。

3 復興の現場で働くということ

 復興の現場で復興を推進していくためには、後ろ向きであってはいけない。これは強く思ったことだった。くだらない私情などで互いに足を引っ張り合ってはいけないのは言うまでもないし、お互いに信頼関係を築いて少しでも復興を進めていくよう前向きに仕事に向かう姿勢を持たなければいけない。
 大事なのは誠実さと柔軟さである。復興の現場という忙しい環境の中でいかに効率よく仕事をするかということを考えた場合、職場環境を良くし、旧来の思い込みにとらわれず、新しい考え方を積極的に取り込んでいくことが求められている。経営学などの知見を積極的に吸収し、そのうえで法令順守に努め、とにかく物事を前に進めていく、粘り強く課題を解決していく姿勢が求められる。

ジャック・ルゴフ『中世の知識人』(岩波新書)

 

中世の知識人―アベラールからエラスムスへ (岩波新書 黄版 30)

中世の知識人―アベラールからエラスムスへ (岩波新書 黄版 30)

 

  中世の知識人たちの活躍について記述した本。

 中世は決して知的に停滞した時代ではなかった。アラビア世界から翻訳もののギリシア哲学が輸入されると、中世の大学では活発に議論がなされ、大学教師は知識人として活躍した。その嚆矢となったのがアベラールであり、その批判的な学問的態度は中世の知識世界の活況を象徴するものである。

 中世の知識人はやがて教会に保護されて特権階級をなすようになるが、オッカムなどの懐疑主義によりさまざまに批判され、14・15世紀にはユマニストの登場により、理論的な学よりも文学が重視され、理知主義は排され信仰が絶対視され、スコラ学の退廃は揶揄された。

 本書は中世の学問状況を伝える希少な本であり、歴史の議論においてはあまり重要視されない分野について詳細に論じている重要な本である。中世は決して暗黒時代ではなく、近代の学問状況に通じるような活発な批判や議論が行われていた。そこでは大学が大きな役割を果たし、多くの知識人を輩出した。興味深い本であった。

高木宏夫『日本の新興宗教』(岩波新書)

 

日本の新興宗教―大衆思想運動の歴史と論理 (岩波新書 青版)

日本の新興宗教―大衆思想運動の歴史と論理 (岩波新書 青版)

 

  日本の戦前戦後の大衆思想運動について記述した本。

 天理教立正佼成会創価学会などといった新興宗教は、戦前に生まれたものであるが、戦争期の国家神道一元主義による弾圧を潜り抜けて戦後になって栄えている。新興宗教は純正な宗教というよりは大衆思想運動の一環としてとらえるのが妥当である。その意味で、マルクス主義運動や他のサークル運動と同列に取り扱うべきである。

 新興宗教は初期の未熟な段階から、様々な批判にさらされて教義を確立し組織を体系化しどんどん合理化されていく。そして近代科学との対立の中で、近代科学では説明できない信仰の部分をカバーする。キリスト教も仏教も、あらゆる宗教は初めは新興宗教であり、時代を経ることにより同じような合理化の過程を経た。

 本書は1950年代に書かれた本であるが、新興宗教を大衆思想運動という広い文脈に位置付けており参考になる。だが、大衆思想運動と位置付けたがために宗教を他の運動と分けることが難しくなり、宗教の独自性がいまいち追求されていない感がある。いずれにせよ、戦前から戦後にかけての民衆の思想運動について詳細に知ることができて得るものが多かった。