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社会科学読書ブログ

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主張責任と証明責任が乖離したら?

 さて、原告が請求を立て、請求原因が真偽不明だったとき、すなわち、原告の証明が不十分で、請求原因の「真実の高度の蓋然性」が得られなかったとき、その請求原因は偽とされ、請求は棄却される。つまり、原告には主張責任も証明責任もある。

 だが、もしも、請求原因が真偽不明のときに裁判所がそれを真だと認定してしまうことにしたらどうなるか。つまり、原告は主張責任は負っているが、証明責任は負わない場合である。原告は売買契約の成立を主張し、代金を請求する。だが、原告は売買契約の成立を証明する必要がない。売買契約の成立が真偽不明であっても、裁判所は売買契約が成立したと認定するからである。そうなると、立証責任は被告に転換される。被告は、売買契約が成立しなかったことを「真実の高度の蓋然性」が得られる程度に証明しなければ、代金を支払わなければならなくなる。

 こうなれば、とにかく訴訟を提起した者の勝ちである。何の事実的根拠がなくても、「私は被告に対して500万円の債権を有する」と主張すれば、被告がその債権の不存在を厳格に証明しない限り、原告が勝訴し、500万円を得ることができるのである。しかも、不存在の証明は難しい。売買契約の存在だったら契約書や居合わせた人の証言を用いることができる。だが、売買契約の不存在だったら、例えば契約日契約場所に原告または被告がいなかったこと、すなわち一種の現場不在証明が必要になってくる。売買契約の存在と矛盾するような間接事実を集めてこなければならない。これはそれほど楽ではないだろう。身に覚えのない請求を立てられた被告の方はたまったものではない。しかも被告敗訴の可能性が高いのである。

 こう考えると、主張責任と証明責任が一致するのもうなずける。