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法律と生活

 財産法と家族法を比べた場合、家族法の方が人間の生活とのかかわりが深い。刑法と行政法を比べた場合、刑法の方が、人間の生活に与える影響は大きい。だがこれは概括的な判断であって、法律の設定する同一性は、その発生させる効果の同一性を拾えていない。例えば、軽いけがを負わせることも人を死なすことも同じ不法行為だが、前者よりも後者の方が、人間(遺族)の生活に与える影響は圧倒的に大きい。

 それでも、ある程度、特定の条文がどれだけ人間の生活に強く影響を与えるかを類型的に判断することはできる。刑法235条の窃盗が適用される事例において、その窃盗行為をめぐるその窃盗犯のドラマは、刑法199条の殺人罪の殺人犯のたどるドラマほど類型的に劇的ではないだろう。民法739条の婚姻をめぐるドラマは、民法555条の売買契約を巡るドラマよりも、もっと生活にとって深いものだろう。

 法律の設定する同一性は、その法律が適用されたときの人間のドラマの無限の特殊性を表現するのには全く不十分である。だが、類型的にこの条文が適用されたときの劇性は大きいが、この条文が適用されたときの劇性は小さい、ぐらいのことは言える。